車田☆矢の登場人物にはしっかり誕生日設定があるので、それぞれの誕生日には☆矢同人界ではよく誕生パーティー話が出ます。
ロスキャンの登場人物には誕生日設定が出ていないのでそれができないのと、誕生パーティーやっているのはたいてい全員復活、三界和平協定後とかの平和な時代なので、聖戦まっさかりのロスキャン時代はそんなことやらないだろうなあという気もします。
それでもたまにお茶会くらいならできるんじゃない?とかいうノリでできた軽いお話(オリキャラ含む)。
束の間の、ちょっとした平和な一コマ。
ろん様からの提供です。
後談だけ当管理人の作です。
(アニメ設定取り入れで部下名前変更―2011.4.24、修正―2012.5.6)
---
「あれ、お茶っ葉?」
ティソナが抱えた荷物に、ラスクがふと目を留める。聖域に程近い、小さな村。特に示し合わせたわけではないが、たまの休暇にばったりと行き会ってしまったところだった。
「そうよ。聖域だとあんまり良い物が手に入らなくて」
「……ティソナでも、お茶なんて淹れるんだ」
「何それ、凄く失礼じゃない?」
ティソナより幾らか年下のラスクは、良く言えば素直で、悪く言えば遠慮やら配慮やらに欠けた物言いをよくする。冗談めかして怒った口調を作ると、すぐに「ごめん」と返してきた。
「自分で飲むの? あ、女の人達でお茶会したり?」
「うんと、エルシド様にね……」
少しばかりの後ろめたさに、若干歯切れが悪くなる。けれどもラスクはそれに気付かなかったようで、へえ、と呟いた後、大きな瞳をきらと輝かせた。
「俺もティソナのお茶が飲んでみたいな、って言ってもいい? エルシド様と一緒にさ」
「……いいけど、さ」
「やった! ラカーユ達も呼ぼう、きっと喜ぶ!」
「エルシド様が、いいって言ってくれたらねー」
何となくこういうことが言われそうだったから、隠すとは言わないまでも、同僚達には話さないでいたのだ。ああ二人だけの時間が、と心の中でだけ溜息を吐いて、しかし大所帯の茶会をけして不愉快には思っていない自分に気付く。きっと愉快なことになるのだろうと思うと、仮面の下でふ、と頬が緩んだ。
*
「……わ、いい匂いだ」
カップに注がれた茶に、まず言いだしっぺラスクが顔をほころばせた。
「ミルクは入れる? 思ったより苦いかもよ」
「よせよ、もう子供じゃないんだ……あちっ」
ティソナがわざとからかってみると、それこそ子供っぽく頬を膨らせてカップを手に取る。そのまま呷ろうとして情けない悲鳴を上げたものだから、場に小さな笑いが起こった。
エルシドの私室とも言うべき磨羯宮には、茶器が三人分しかない。残り二つは似たデザインの物をツバキが持ち寄ってきたが、テーブルも五人で座るには手狭だ。けれども、その狭い空間に無理矢理収まるようにして開かれたささやかな茶会は、けして窮屈なものではなかった。
「──しかし、磨羯宮も華やかになったものですね。あれはアルバフィカ様の差し入れですか?」
少し場違いな風にすら見える、白と桃色の薔薇。それらが挿された花瓶を認めて、ツバキが言った。
「まあ、そのようなところだ。……そう言えば、ティソナ、」
穏やかな声音で答えてから、エルシドはこの場で唯一の女聖闘士を呼ばわった。ティソナはくるりと振り向いて、「わかってますよ」、と言う。
「私はあちらでいただいてきます、すぐ戻るから、おしゃべりには混ぜてくださいね」
悪戯っぽく笑う、愛らしい顔が見えるようだ。ツバキはほうと息を吐き、ティソナを、次いでエルシドをちらと窺ってから、手元の茶を一口含んだ。
──確かに美味い、主は舌も確かだ。
「俺はティソナの顔、見てみたいけどなァ」
「何言ってんの、あんたそんなに私に殺されたかったの?」
なるたけさり気なさを装って、しかしありったけの勇気を振り絞って言ったのはラカーユだった。すると案の定と言うべきか、何とも色気の無い答えが返ってくる。候補生時代から切磋琢磨してきた仲だが、なまじ古馴染なのは、やはりこういう時には却って不利なものなのだろうか。
「俺はティソナのこと大好きだよ、愛してくれない?」
突然、言いたくて堪らなかった台詞が隣から聞こえてきて、思わずぎょっとする。目を向けてみるとにこにこ顔のラスクがいて、無意識に胸を撫で下ろしていた。
「そういう話じゃないの、私もラスクのこと大好きだけどね」
それも、束の間。地団駄踏みたくなる衝動を、ラカーユはもう少しのところで抑えた。──その言葉を聞ければ、どれほど嬉しいか! 例え思うような意味でなくても──とまで考えて、ふと思い直す。……冗談混じりの愛の言葉を聞いても、きっと無性に悲しくなるだけだ。
「じゃあ、私は後片付けしてから戻るから。あんた達はさっさと帰んなさいよーっ、」
「わかった、明日は修練場で会おうね!」
「エルシド様、茶器は磨羯宮に置いておいてください。また集まりましょう」
それぞれ別れの言葉を言い合って、ぞろぞろと席を立つ。
「手伝お──」
「何をぼやぼやしてる、ラカーユ。戻るぞ」
ラカーユはもう一度勇気を振り絞ろうと試みたが、妙にタイミングのいい年上の同僚に半ばで止められる。
約一名不完全燃焼者を抱えたまま、小さな茶会はお開きとなった。
*
皆が帰り、ティソナは使った茶器を洗って片付けた。だいぶなじみになった磨羯宮の厨房。
「すまないな」
エルシドが茶器をしまうティソナに声をかけた。
「何でもないですよ」
自分の分は厨房で飲んだが、任務の打ち合わせではなく、皆で集まって他愛ない話をするのは思いのほか楽しかった。とはいえ、それとは別に――。エルシドの手がそっと頬に伸びた。ティソナはその手に自分の手を添え、仮面をはずす。本当はこうして二人で差し向かいで飲むつもりだったのだけど。
「予定がだいぶ遅くなったな?」
からかうようにエルシドが言う。そんな口調が聞けるのが嬉しい。顔を動かしたはずみで、最近またもらってきた薔薇が目に入る。
「ツバキは目ざといですね。ちょっとひやっとしました」
「…今度から奥に置いておくことにしよう」
耳元に、そんな言葉がささやかれる――。
翌朝。ラカーユは意を決して女聖闘士の宿舎を訪ねた。
「ティソナ? もう修練場に行ったと思うけど?」
物慣れた感じの女聖闘士が出てきて答えた。
「そうですか。すみません」
ラカーユは頭を下げ、ぼやきながら立ち去った。あー折角気合を入れてきたのに。宿舎から修練場に行くまでの間に少し話ができると思ったのにな…。
ティソナは夕べ戻ってこなかったよ、なんて言えないねえ。あいつも気の毒に。女聖闘士は苦笑して部屋の中に戻った。
---
主編の「聖域」の章より少し後。
ツバキくんは感づきましたが、ラカーユくんはまだ気づいてない…という頃。この後ラカーユくんはどんどん気の毒なことに(笑)。
物慣れた感じの女聖闘士さんは蛇遣い座、現代だったらシャイナさん位置の人を妄想。
「茶器が三人分」というのはエルシドとマニゴルドとシジフォスの分だそうです。アルバフィカは来ないよね…もし来ても自分の食器は持ってきて持って帰ると思う。よく現代の「年中組」が誰かの宮で食事したり酒飲んだりしているのがあるので、そういうのもやってみたいのですが。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
何かありましたら
mcbt★br4.fiberbit.net
まで(★を@に)。
Powered by "Samurai Factory"