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「……受け取ったのか、むしろ渡されたのか」
「下駄箱に置き去られていたのでね。あのままでは腐ってしまう」
ゆうに手のひら二つ分ほどはありそうな、大きなハート型のチョコレート。それをまるで見せ付けるかのように目の前でぱくついた悪友に、デフテロスは大きなため息をついた。
眼を閉じたまま通学路を歩き、かつもしゃもしゃと菓子を頬張る姿は確かに器用かもしれないが、それ以前に奇妙極まりない。
「何かねデフテロス、欲しいなら欲しいと言いたまえ」
げんなりとした視線を送っていると、アスミタはくるりと頭を動かし、閉じた眼で眼を合わせてきた。
あまりの的外れさに頭の奥がちりちりと痛み出すのを感じながら、もう一度のため息が口を衝いて出る。
「……俺は甘い物は嫌いだ」
「まあそう言うな、この量は私には荷が重いのだよ」
嫌味をたっぷり込めて短く言い返してやったが、まったく応えていないようだ。飄々とした体でいったん菓子を口から放すと、ぱきりとハートの中央から真っ二つにして、ずいと差し出してくる。──この眉間の皺をさっさと見てくれ、アスミタよ。
「食いたまえ。アスプロスの手製とでも思えば食も進もう」
「兄さんはこんなチャラチャラした物は作らない」
けれども有無を言わさぬ態度で突き出されたチョコを受け取ってしまった俺は、やっぱり意志が弱いのだろうか。
チョコレートを噛み千切らんばかりに食いつくと、にい、としたり顔のアスミタが笑った。
「デフテロスよ、」
「何だ」
なんとなく嫌な予感がする。
「バレンタインのチョコレートは、三倍返しが基本だそうだ」
「……ぬかせ、元々の渡し主も知らんのだろう」
「私からの好意を受け取っておきながら、その言い草は何だね」
好意だなんだとはよく言ったものだ。もう答えるのも面倒になってきたので、とりあえずチョコレートで口を塞いでおくことにした。
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アスミタさんがヘンな奴です(笑)。アスミタ→デフテロスかな。
デフテロスはいろいろ断りきれない人のいい奴。別にアスミタのことは嫌いじゃないけど、困惑していると思います…。
続きます。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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