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報告を終えて磨羯宮に戻った。何も変わらぬはずなのに、ひどく空虚に感じられる自宮。そのまま、腰を下ろす。どのくらいたった頃だったか。
「邪魔するぜ。明かりぐらいつけろよなー」
軽い声がして、マニゴルドが入ってきた。
「いい酒が手に入ったんでな。一人で飲むにゃもったいないからな」
マニゴルドは勝手にグラスを二つ出してきて、それぞれに持参の酒を注いだ。
「そら」
マニゴルドが差し出したグラスを受け取り、エルシドは無言でその酒を呷った。今までも二人で飲むことがないではなかったが、いつもは口数の多いマニゴルドがこの日は無駄口はたたかず、二人は黙って酒を飲んだ。
「やれやれ、もう切れたか」
ややあって、マニゴルドは空になった酒瓶を振った。
「じゃあな。うまい酒だったろ?」
「ああ」
「今日はさっさと寝ろよ」
マニゴルドは入り口で後ろを向いたまま、片手をあげてそう言い、出ていった。
ふと見ると、いつ注いだのか、手のついていない酒が一杯卓の上に置かれていた。エルシドはそのグラスを持って裏庭に回った。今は亡き人への弔いに、エルシドは酒を宙に放った。足元に、白い花が咲いているのが目に入った。いつだかの会話が蘇る。
『この花の意味をご存知ですか? 「誓い」という意味なんですよ』
守るための道を貫く。それが我らの誓い。
やがて室内でマニゴルドのつけた灯が燃え尽きた。
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主編「痛恨」の章の後。
マニゴルドさんはわざわざ秘蔵の酒を持ってきてくれたのだと思う。きっとエルシドは味なんか今はわからないだろうと思いつつ。
余計なことを言わないマニゴルドさん、いい奴!
…この二人、聖衣着たまま酒飲んでるんだろうか?
酒を宙に放つ、という弔いの習慣ってどこかにないかなあ。
彼岸花(リコリス)には「誓い」という花言葉があるそうです。種類はいろいろありますが、ここのは白い一重の花を想定。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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