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数学屋のメモってのはこれだから。親友の背中に張り付いて、肩越しにその作業を見つめながらあくびを噛み殺した。真剣そのものの表情で数式を次々書いているが、カルディアにとってはただの暗号だ。数学記号の躍る文字列を見ていると頭が痛くなってきそうだったので、むしろデジェルの握るペンやらほとんど使われない消しゴムやら、雑多に散らばったメモ用紙やらに視線を泳がせる。
そういや、何でこんなに規格の違うメモを持っているんだろう。ノートと言えばキャンバスノート、消しゴムと言えばMO-NOのこいつが、違う種類のメモ用紙を買っているなんてことは無いだろうに。見たところ使い分けている様子も無い。好奇心から内一つを摘み上げて、カルディアはうえっと声を上げた。
「……どうせ邪魔するなら、もう少し静かにしていろ」
先で二股に分かれた不思議な眉が、若干機嫌悪げに細められる。
「だってよ、デジェル……」
カルディアは親友の背中からようやっと離れると、今度は差し向かいの位置で彼がメモ用紙に使っていた紙の一枚を指す。
裏、否、元々の表には丁寧に綴られた言葉の数々が見えて、なけなしの良心が痛む。
「これ、全部、お前宛のラブレターだろ!?」
「ああ、あまり派手な物は流石に捨てた」
「『ああ』、じゃねえよ女の敵! うわーひでー……あっ、この子三年のあの子じゃん! かわいいのになー、何だってこの似非クールに……」
容姿端麗スポーツ万能、成績トップが指定席のこの男が、まったくもって色恋沙汰に興味が無いというのは意外と知られていないらしい。下駄箱に少なくとも毎週三通はラブレターが届いているのは知っていたが、まさかこんな事に転用していようとは。
「地元からの援助で通っている身だ、少しでも節約せねば」
「息子がラブレターで因数分解してるって知ったら、地元のお袋さんは泣くだろうよ……あーもー、これも、これもか……」
片っ端から机の上の紙をひっくり返しながら、げんなりと呟く。
「言いふらさないでやるけどよ、授業中には使わない方がいいんじゃね……」
「そんなに悪いことなのか? 捨てるより何倍もいいと思うが」
「……女心をわかっちゃいねえなあ、頭脳明晰なデジェルさんは」
親友へのラブレターを盗み見るという不毛な行いをやがて止めて、じとりと親友を見つめる。
「お前、手紙を返したことってある?」
「ユニティとの文通は欠かさずしている」
……そうかいそうかい。
こういう奴がモテちまうからこの世は上手く廻らねぇんだと小さく毒づいて、カルディアは差出人に合掌した。
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デジェルさんってば…。
「三年のあの子」って誰かなー。
地元の友人のお姉さんとは何かないの?
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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