「おら、うちのジジィから届け物だってよ」
「せわしない奴じゃな。とりあえずそのへんにすわったらどうじゃ、マニゴルド。…ときに聖域はどうだ?」
ジャミールの族長ハクレイは差し出された文書を受け取りながら言った。
「別に今んところは大した変わりはねェな…。この前童虎が冥闘士を見かけたって言ってたが」
「ほう」
うなずきながら、まだ足らぬ気にこちらを見るハクレイにマニゴルドは肩をすくめた。
「あんたの弟子は元気だよ…つうか、白羊宮から鎚を打つ音がカンカン聞こえてたから元気なんだろうさ」
「なんじゃ、それだけか」
「それだけわかりゃ十分だろうがよ。邪魔したら悪いじゃねェか」
マニゴルドはさりげなく気配りなところを見せて言う。
「あとは…ああ、処女宮からはいつものように瞑想してる小宇宙を感じたから、アスミタも元気なんだろう。あいつこそ声をかけてもめったに答えやがらねェからな」
「ほかはどうじゃ?」
「エルシドは昨日任務に出て行ったから今日は会ってねェな。まあ出かけるときは少なくてもぴんぴんしてたぜ」
「やれ、どれも頼りない報告だのう」
ハクレイ大げさにため息をついてみせる。そして誰か忘れているのではないか?とマニゴルドを見やった。
「…わかったよ。聞きたいんならさっさと聞きゃいいだろうが。あんたの弟は相変わらず仕事漬けだよ。たまには聖域に来て、お互いもうジジィなんだから無理すんなって言ってやれよ。あんたの言うことなら少しは聞くんじゃねェか? 俺が言ってもさっぱりだけどよ」
「ふむ。ユズリハに鶴座の資格を認めると言ってきたようだ。近々顔を出しに行くかな」
「頼んだぜ、ジィさん。じゃあな」
マニゴルドはさっさと帰って行った。まったく、席の温まる暇もない。態度に出さないようにしていたつもりかもしれんが、心配している気配がだだ漏れじゃな。ハクレイはにやりと笑った後、面を引きしめた。聖戦が近い。聖域では何かと慌ただしくなっているのであろう。セージの苦労を少しでも軽くするために動いてやらねばな。あの宿敵の二神を我らで封印するためにも。
「帰ったぜ、お師匠」
私室で執務していた教皇は机から顔を上げた。
「おお、早かったな」
「俺だって今や黄金聖闘士だぜ? ジャミール往復くらい朝飯前ってんだ」
「そうだったな」
そう言って微笑んだ顔にはやはり疲労の色が濃い。マニゴルドは眉をしかめた。
「それで兄上はなんと?」
「近いうちに来るってさ」
「そうか。鶴座の聖衣の受領はいつでも良いと書いておいたのだがな」
「あのジジィも息抜きがしたいんじゃないのか。あすこの弟子はシオンに劣らず真面目そうだからな」
「ほう」
「あんたも大概にしとけよ。今日は俺が飯作ってやるから、食ったらたまにはさっさと寝ろよ。そんな顔してたらあっちのジジィが来たときに、なんかうるさく言われるぞ」
「不肖の弟子が手伝ってくれないからだとでも言っておこうか」
そう言いながらも気遣ってくれるマニゴルドにセージの目は笑っていた。
「…勝手にしろ。呼んだらぐずぐず仕事してないでさっさと来いよ。俺のまずい料理なんて、冷めたら食えたもんじゃないからな」
出て行くマニゴルドを、セージは笑みを浮かべながら見送った。あれで結構凝ったうまい料理を作るのだがな。さて、ではさっさと片付けてしまおう。セージは書類を引き寄せた。若い者に引き継げるように諸々を済ませておかねばならない。だが今宵はお前との食事を楽しむことにしよう。聖戦が始まればもはや寛ぐ暇などはない。せめて、今宵は。
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セジマニにしようと思っていたのに、セージ様出なくてやばい!となって、後半を追加。仲の良い師弟がうまく書けているでしょうか(この後はご想像のままに)。
関係者ほか、名前だけいろいろ出してみました。
デスマスクは料理がうまいっていうもはや確立したような同人設定がありますが、マニゴルドは生い立ちからして聖域に来る前はそういう感じじゃないから(デスマスクだって子どもの頃から修行してたはずだけど)、料理をするようになったとしたら、聖域に来てからかなあ。そしてそれはもちろん、大好きなお師匠のためだよね!
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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