「使い」への拍手とコメント、ありがとうございました!
気に入っていただけて幸いです。
外伝その後シリーズ第12弾、外伝後~聖戦時~聖戦後。久しぶりに「聖戦後」!
ウルスラとクリス姉妹。ちょっとだけラダマンティスとバレンタイン。アスプロス関連。
オリキャラは出ません。
クリスとウルスラが帰ってきたとき、屋敷の者たちは皆驚いたものだった。何があったのか、二人とも衣服はぼろぼろだったが、それよりも驚いたことには、クリスが毅然と顔を上げて前を歩き、ウルスラがその後ろにつき従うようにやってきたことだった。
ウルスラは屋敷に着くなり自分の部屋に閉じこもり、以後食事のときくらいしか部屋から出て来なくなった。対してクリスは、姉とともに自分にひどいことをした召使たちにも何事もなかったように振る舞い、父親の死後滞っていた屋敷の切り盛りを積極的に手がけ始めた。おとなしかったクリスの変わりように初めは戸惑った屋敷の者たちも、これまで我が物顔にふるまっていたウルスラが全く何もしなくなったので、徐々にその状態を受け入れていった。
「ふうっ…」
クリスは自室に入って息を吐いた。ようやく物事も落ち着いてきて、家を切り盛りするのにも慣れてきた。クリスは窓辺に立って外を眺めながら夜風で涼んでいた。
ふと、誰かが呼んでいるような気がした。家に帰って少し経った後も不意に妙な胸騒ぎがしたときがあったが、それとはまた別の感じがした。あのときはどこか遠くで小宇宙がひどく揺らいだ感じがしたのだ。自分の冥闘士の小宇宙とは異質な、あの聖闘士の小宇宙が。
「アスプロス…?」
聞いてみたくとも、アスプロスがクリスの声に答えることはなかった。そのときと同じように。
再び、呼びかけを感じた。強く引き寄せるように、執拗に。
この声は…
「従兄(にい)様…?」
子どもの頃に何度か会ったことがある、本家を出奔して杳として行方の知れなくなった従兄。冥衣から感じ取ったその行き先。
ふと見ると、ケートスの冥衣が出現していた。いつもは体の中に封じてあるのに。なぜ…?
ケートスを通して呼びかけが聞こえる。繰り返されるその呼びかけで次第に頭の中が満たされていく。何も考えられなくなっていく。クリスはふらりと冥衣がの方に近づいた。
何かの気配を感じてウルスラは顔を上げた。と、突然ガラスの砕ける大きな音が聞こえた。ウルスラはベッドからはね起きて廊下を走り、妹の部屋のドアを開け放った。
クリスの部屋のバルコニーへ通じるフランス窓は外へ向かって大きく開き、ガラスがすべて砕け散っていた。
開け放たれた窓のそばにケートスの冥衣があった。その前に立っていた妹は、ケートスの冥衣の方に手を伸ばしていた。
「クリス!」
妹がのろのろとこちらを向いた。何かに操られているような、表情のないガラス玉のような目。あのときと同じような。このままでは行ってしまう。私を置いて。
「何やってるのよ、貴女! 貴女は…貴女は、私を守ってくれるんじゃなかったのっ?」
ウルスラは叫ぶように言った。その言葉に、ぴくりとクリスの手が震えた。
「姉様を…守る…」
クリスは瞬いた。表情のないクリスの目がゆっくりと光を取り戻していった。
「ありがとう、姉様」
「別に、貴女のためなんかじゃないわよ。今、貴女がいなくなると私が困るからってだけよ」
それでも微笑んで謝意を述べる妹に背を向けて、ウルスラは足音高く自室へ戻っていった。
クリスは頭を振った。ああ、私はまた自分を失うところだった。もっと心を強く持たなくては。もう誰にも負けないと誓ったのだから。
「やはり、ケートスは答えませんか、ラダマンティス様」
「ああ。何か反応があった気がしたのだが、な」
精神を集中していたラダマンティスは見切りをつけるように立ち上がった。
「構わん。来ない者など待つことはない。今いる者たちだけで十分だ。行くぞ、バレンタイン」
「はっ」
真偽のほどははっきりしないが、ケートスには聖域の者が何か細工をして召集を妨害したという情報があった。ラダマンティス様の呼びかけにも逆らわせるとは何と不遜な。バレンタインは密かに歯噛みしながら、歩いてゆくラダマンティスの後を追った。
*
クリスは別邸の跡に来ていた。あれから2年余りが経っていた。あの頃にめちゃくちゃになったものは物心ともほぼ修復されたが、このほとんど人に知られていない海辺の別邸だけは、当時のまま残してあった。
海の見える大破した部屋のある場所に来て、クリスはケートスの冥衣を出現させた。そしてそっと手をふれる。
思っていた通りだった。海の眷属であるケートスの力が増すはずのこの場所にわざわざ来たにもかかわらず、それでもケートスからはほとんど何も感じられない。深く眠っているようだった。以前は感じた従兄の、そして冥王の呼びかけも全く感じられなかった。
「聖戦は…終わったの?」
この数週間、微かに感じられていた各地での小宇宙の激しい流れ。今は平穏な空気に満ちている。世界がこのままにあるということは、従兄を初めとした冥闘士と、冥王の企みが退けられたということなのだろう。
聖戦は、人間の数世代ごとに何回も繰り返されているという。今回の聖戦が終わったとしても、いずれまた冥闘士が現れるときが来る。では、この冥衣を世界の破壊に使わせないために封じていく術を後継者に伝えるのが、これからの私の役目なのだろう。
「ねえ、それでいいわよね…アスプロス」
クリスは冥衣をしまい、立ち去った。毅然と、前を見据えて。
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クリスちゃんが聖戦に参加したかどうかは不明で、聖戦後に生きているかも不明なのですが。
原作本編のラストで二つ残った数珠はチェシャとアイアコスの分だと思っていたけど、腹を貫かれていたアイアコスがあの後死んだ、または「水鏡」という人間に戻ったため「アイアコス」の数珠は色が変わっていると思えば、残ったのはチェシャとクリスちゃんの分とも取れるんじゃないか、ということで。
アスプロスはクリスちゃんの脳に幻朧拳の応用?みたいなもので干渉して、冥闘士になることを妨げたのですよね。魔星の導きがどれほどのものかはわかりませんが、それってかなりすごいことなのかも。
でもバレンタインみたいに現世での執着が強すぎると冥闘士としての存在意義が揺らぐのなら、LC世界では結構冥闘士も人間くさいのかな。
で、冥衣って、その魔星の持ち主だからと言って人間が封じることができるものなのだろうのか?
お父さんも魔星の持ち主だったのか? クリスちゃんは「祖父の代から」とも言ってるんだよね。ケートスは世襲なのか?
「もともとは伯父が所有者」とあったけど、ケートスとワイバーンの関係は?
ラダマンティスといいバレンタインといい、ウォールデン家周辺は冥闘士多いよね。
ウォールデン家の本家の長男とその従者の話も書きたいな~材料少ないけど!
パンドラ様の前に初めて出たときに戦った後みたいな姿だったのが気になる…
ところで連載中から気になっていたのだが、ウォールデン家はイギリスだと思うのだけど、なぜウルスラさんは「アーシュラ」じゃないんだろう…?
まー、フェローズ諸島が「イギリス」な世界の延長だと思えば…
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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