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Posted by - 2024.05.12,Sun
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Posted by MCBT - 2012.07.06,Fri
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

外伝その後シリーズ第4弾。聖戦前~数年後。
ジョーカちゃん、セージ様、シオン様。マニゴルド関連。
オリキャラは出ません。


外伝5巻刊行!
これで封印していた外伝絡みの話が出せます(まだ湧いたネタすべて消化してませんが)。
その手の話がしばらく続きそうなので、その前に出しておきます。

エルシドファンから小宇宙を送って、明日のサイン会の盛況をお祈りしております!

 


拍手[1回]


---


「なっかなか貯まらないもんだなあ~」
 ジョーカはこっそり貯めている金を数えながらぼやいた。自分で真っ当に稼ぐ、と決心してから、スリ稼業には手を染めていない。いや、正直に言えばほとんど、だけど。仲間が病気になったときとか、どうしても食べ物が手に入らなかったときとか、数回は金回りの良さそうな奴からこっそりいただいたことがある。
 でも自分の出自を知って目標ができた。必ず故郷の島へは自分の金と足で行くと。身寄りのない若い者を雇ってくれるところはなかなかない。ましてや毎日食べる以上に金をもらえるところなど。それでも何とかやってきた。今は小さな宿屋の賄い場で働いていた。亭主の一家はいい人たちで、家のないジョーカは住み込みで働かせてもらっていた。

 今日も夕食時で客が立て込んできた。ジョーカは炊事場と食堂を料理を持って忙しく行ったり来たりしていた。ここの料理は質素ながらこの界隈ではちょっとばかしうまいと評判で、泊まりでなく、食事だけしに来る客も多い。
「おい、あっちのお客さんからお前をご指名だ。行って来い。きちんとお相手するんだぞ。御用が済むまで他はいいから」
 何やら特別にもらったらしい硬貨を手の中で転がしながら、宿の主人がジョーカを呼んだ。
「わざわざ俺に?」
 ジョーカは驚いて言った。一応女性の端くれとはいえ自分はまだ子どもだし、とりわけ見目麗しいわけでもないから、給仕されても特におもしろいことはないだろうに。それに、ことさら隠すのはやめたとはいえ、女だとわかると無用のちょっかいを出されることもあって、動きやすい男物の服を着ていることも多く、今日もくたびれた宿の主人のお古を着ていたのだ。
 指示された方を見ると、隅のテーブルに、老人が一人すわっていた。胸に飾りを下げ、足元までの長衣を着ている。その頭には奇妙なマスクをかぶっていた。
 ジョーカがそのテーブルに近寄ると、老人は頭からマスクを取った。長い髪がさらりと肩に流れる。
 その顔を見て、ジョーカは一瞬ぎくりとした。
「首領・アヴィド…?」
 思わず、その名が口をついて出てしまった。
「似ているか? あの者はわざとか無意識かは知らぬが、自らの師匠の姿を模しておったからな。我が双児の兄ハクレイがその師匠だ。さだめし私とも似ていよう」
 言われてジョーカは改めてその顔を見直した。だがよく見ると、アヴィドとは全然違う。確かに髪型などは似ているかもしれない。しかし、ずっと年を取っているらしいこともあるが、何よりも感じられる暖かく深みのある命の力、マニゴルドやアルバフィカが教えてくれたところの小宇宙、が全然違う。
 思わずその顔に見入ってしまっていると、老人はふっと微笑み、向かい側の席を指し示した。
「すわりなさい。亭主には話を通してある」
 おっかなびっくりすわると、老人はその底知れぬ深さを持つ眼差しで、ジョーカをじっと見つめた。
「会うのは初めてだな。だがお前のことは聞いておるよ。マニゴルドからな」
 聞き覚えのある名前に顔を上げる。
「お前に会いに来たのだ。聖域からな。デスクイーン島の子どもよ」

 老人のはからいでジョーカにも食事が振舞われた。給仕もせずに、と初めは恐る恐る料理を口に運んでいたが、遠慮するなという老人の言葉に、間もなくジョーカは腹を決めて従うことにした。実際料理はうまかったし、空腹でもあった。
「お前はデスクイーン島へは自力で行くと言ったそうだな」
 食事がほぼ終わったころ、老人は話を切り出した。
「ああ…はい」
 この人はきっと聖域の偉い人に違いない、と思ってジョーカは言葉遣いを改めた。こうやって向かい合っていると、何をしているわけでもなにのに、半端ない小宇宙がひしひしと感じられる。
「立派な心がけだが、我々に言えばすぐ連れて行ってやっても良いのだぞ」
「俺…私は故郷のことはほとんど覚えてないんです。どんなところだったかも、家族のことも。家族は大事なものを守っていて殺されたって聞きました。だから」
 ジョーカは顔を上げた。「だから、それを自分の中でちゃんと受け止めて…自分が同じように何かを守っていけるように、何かの役に立てるように、一人前になってから行きたいんです」ジョーカは必死に言葉を綴った。「でも本当はまだちょっと怖くて…覚悟ができきってないってのもありますけど」
「当然だ」老人は暖かい声で答えた。「我々はお前に行くことは強制はせぬ。デスクイーン島の仮面の所有者の権利はお前にある。お前の心の準備ができたときに、望むときに行くが良い」
「権利…?」
「そう、権利だ。暗黒聖闘士はそもそも聖域からの脱落者、あの仮面はその者たちの力を抑えるために作られた。デスクイーン島の一族だけがあれを使える。その権利だ。あの島の苛酷な環境の中に暮らし、その務めを果たしていた者たちに我々は敬意を払う」
 老人は立ち上がった。
「もし必要があったらいつでも呼ぶとよい。お前は小宇宙を感じることができるということだったな。強く念じれば、誰かがそれに答えて現れるであろう」
「はい…。ええと、あなたは…」
「私は聖域で教皇を務めているセージという。聖域に来るときには歓迎しよう。不肖の弟子が世話になったことだしな」
 最後の、笑みとともに言われた言葉に思わず問い返す。
「弟子って…」
「マニゴルドのことよ。私もかつては蟹座の黄金聖闘士だったのでな」
 え、教皇って聖域ではアテナ様の次に偉い人だよね、確か。マニゴルドってそんなに偉い人の弟子だったのか?
 少々混乱気味のジョーカをよそに、教皇は去っていった。

「ここが聖域かあ…」
 ジョーカは十二宮を見上げて息を吐いた。
 あれから何年が経ったろうか。ようやくある程度の金がたまり、デスクイーン島へ向かう前に聖域を訪ねてきたところだった。聞けば先頃まで行われていた聖戦の中で、アルバフィカもマニゴルドも還らぬ人となったという。
「何だよ、付き合ってくれるんじゃなかったのかよ」
 ジョーカは寂しさを紛らわすために文句を言った。
「お待たせしました。教皇がお会いになるそうです」
 取次ぎに行っていた雑兵が戻ってきて告げた。せめて教皇に挨拶を。ジョーカは十二宮の階段を昇り始めた。

「そなたがジョーカか。私は現在の教皇でシオンという」
 同じ長衣、同じマスク。だがそれをつけた人の顔はずっと若い。
「あの、前の教皇様は…?」
「セージ様はこの間の聖戦で、蟹座の黄金聖闘士とともにその命をかけて死の神タナトスを封印されたのだ」
「マニゴルドと一緒に…?」
「ああ、そうだ」
「そっか…」
 神様を封印したんだ。二人とも、やっぱりすごかったんだな。
「ときに、そなたは『暗黒』の首領、アヴィドに苦労させられたそうだな。私からも侘びを言っておこう」
「へ?」
「アヴィドは我が師ハクレイの一番弟子だった男だ。私はアヴィドとは直接会ったことはないが。そもそも聖域に由来するごたごたに巻き込んですまなかった。そなたの故郷のことも」
「いいえ」
 心のこもった言葉だった。以前会った教皇の深みのある物言いとはまた違うが。
「そなたはこれからデスクイーン島に向かうと聞いたが」
「はい。いつまでいるかは決めていませんが、とりあえず行ってみようと」
 シオンはうなずいた。
「例の仮面は聖域の者をやってデスクイーン島に納めてある。そなたなら行けばわかるであろう」
「わかりました。またあれを使わなきゃならない奴らが出てこないといいけど」
「そうだな。今のところその兆候はない。少なくともしばらくは問題はなかろう。だが、」
 シオンは言葉を切って玉座を下り、ジョーカの近くまで来ると膝をついてその肩に手を置いた。
「だがデスクイーン島は遠い。つつがなく行かれよ」
 暖かく深みのある小宇宙。ああ、この人も教皇なのだ。前教皇セージと同じ。すべてがなくなったわけじゃない。継がれていくものがあるのだ。
「はい、ありがとうございます」
 ジョーカは立ち上がった。もう裏道は歩かない。前へ進もう。自分の一族の跡を辿りに。


---


教皇マスクとデスクイーン島の仮面をかけてみました。
どっちも「マスク」でも、形態は違いますけどね。

マニゴルド関連の生き残りってジョーカしかいないので、聖戦前から始めてお師匠様と絡めてみました。
教皇直々の視察ってどこまで行くのかなあ。マニゴルドを拾ったのがシチリア島?なら、同じイタリアのヴェネチアならきっと行けるよね。

シオン様の二人称がわからん…。
アヴィドさんとシオン様はきっと面識ないよね。「一番弟子」っていうのは「一番先に弟子になった」というより「弟子として一番だった」という意味に使っています。アヴィドさんの前にも弟子がいたのか、そもそもアヴィドさんが何歳なのかはわからないけど。アヴィドさん、一人称「俺」なんだよね。ジャミールの人じゃないんだろうか。修復師としての修行はしたのか?とかいろいろ気になる。

デスクイーン島とあの仮面について、無印・LCの原作の関連部分をいろいろ参照しました。
もし明らかな事実誤認等がありましたらご指摘ください。
デスクイーン島ってひどいところなんですよね…赤道直下で火山があって、「大地はあつく焼けただれ 一年中火の雨がふりそそぐ」のですよ。でも一般人がいて小麦がとれて牛や豚が飼えるんですよ!


以下、おまけ(ギャグです)。4コマ漫画かなんかで描ければなあ。

「いやいや、本当に感心だ。あの島へ進んで行こうというのには敬意を払う」
 セージは何度もうなずいていた。
「え?」
「あの島があるのは南太平洋だからな…」
「ええ?」
「しかもあそこは一年中火の雨がふりそそぐ大変なところだ。いや全く素晴らしい心がけだ」
 セージはしきりに感心している。
(えええー、デスクイーン島ってそんなところなんだ…)
 ジョーカは内心青くなった。
(行くのやめよーかな…ていうか、誰か先に教えといてくれよ! 今さら引っ込みつかないじゃないかー)
 ジョーカの心の声は虚しくこだまするのであった。

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MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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