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エルシドの体には傷があった。
右肩から左の脇腹にかけて。右腕の肩から肘にかけて。そして初めの傷のやや下にもう一つ。いずれもかなり大きな傷だ。それも決して修行時代といった昔のことではなく、せいぜい数年前のものだ。それより前の、自分と会った7年前、17歳のときエルシドはすでに黄金聖闘士だった。あの黄金聖衣を着ていて、しかもあの技量があるのに、エルシドがこれだけの傷を負うとは何があったのか。
ティソナはそっとその傷痕を手でなぞった。
「…気になるか?」
「あ、いえ…はい」ティソナはあわてて首を振った。「あの、すみません、詮索するつもりでは…」
「いや、構わん」
エルシドの表情は穏やかだった。
「それは…俺の兄弟子だった男のつけた傷だ」
「え?」
「聖闘士になるにふさわしい仁智勇兼ね備えた男だったが…自分には技を究め、何としても聖闘士になろうという気持ちが欠けていたと言っていた。修行地で山火事に遭った際、まだ未熟な俺ともう一人を守って拳が使えなくなって、聖闘士への道を去った男だ。その後再会したときは、ある夢に捕らわれて、自ら夢の神を呼び込んでいた」
「それで…戦われたんですか、その方と」
「ああ」
エルシド様をして仁智勇兼ね備えたと言わしめるほどの人。しかも兄弟子、心身ともに厳しい戦いだったに違いない。それなのにエルシド様は、そう、まるで射手座のシジフォス様のことを語るときのように、敬愛をこめた口調で懐かしそうに語るのだ。これほどの傷を負わされたというのに。
「その方は…」
「死んだという話は聞いていない。縁があればまた会うこともあるだろう」
ああ良かった。生きていらっしゃるんだ…。エルシドのために、ティソナはちょっとほっとして微笑んだ。
「なんだ?」
「いえ」
ティソナは首を振った。それ以上はふれてはいけない気がした。
「でも…ちょっとその方が羨ましいです」
ティソナは笑って言葉を続けた。
「何がだ?」
「私も見たかったです、エルシド様のお若い頃の、修行時代」
エルシドは一瞬微妙な表情をした。
「どうしたんですか?」
「惚れた女に、自分の未熟なところを見せたいと思うか?」
耳元で囁かれる言葉に胸が熱くなる。
「ずるいです…エルシド様は子どもの頃の私の泣き顔とか見てるのに…」
赤くなった顔を隠すように俯ける。
「泣いてはいなかったと思うがな。睨みつけるようないい面構えだったが」
「エルシド様…!」
軽く睨むようしてからエルシドの胸に身を寄せた。
私たちの道は聖闘士の道。でもその道を目指さない人にも、打ち込める道が見つかりますように。ティソナはそっと願った。
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外伝ネタ第1弾がこれかいw
ピロートークだよ!
エルシドの体を見る余裕ができた頃とか。
外伝のあのくだりを見たときやりたいとすぐに思った傷ネタ。
聖闘士さんは小宇宙治療したら傷痕は消えちゃったりするんだろうか?
復活ネタだと「残っているのは神のつけた傷だけ」っていうの、よくありますが。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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