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Posted by MCBT - 2012.07.09,Mon
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

外伝その後シリーズ第5弾。聖戦前~聖戦直後~数年後。
フェルサー、ラカーユほか。エルシド関連。
オリキャラは出ません。

エルシド外伝ネタものの中では一番まっとうなもの(笑)。

 


拍手[2回]


---


 聖域に来るつもりはなかった。聖闘士になるのをあきらめてからは、もはや縁のないところと思っていた。
 カタラニアでの己の凶行の償いに、フェルサーは各地を流れながら、求められるまま力仕事をしたり用心棒をしたりしていた。根気のいる開墾や畑仕事に従事することもあった。報酬はいつもろくに求めず、最低食べていける分しか受け取らなかった。
 護衛を頼まれた隊商が向かった先はたまたまギリシャのアテネの近郊、その契約が終わったあと、ふと足を向ける気になった。
 聖域には自分たちの修行地だった隠れ里と違い、多くの者が集っていた。闘技場の近辺では、来るべき聖戦に備え、聖闘士の聖衣をまとった者もそうでない者も、自らの鍛錬に余念がない様子だった。やけどの痕の目立つ顔も、たくましい巨体も、ここではさして奇異には映らない。
(黄金聖闘士は…さすがにこの中にはいないか…)
 無意識にエルシドの姿を探している自分に気づき、フェルサーが踵を返そうとしたとき。
「あのう、フェルサーさんじゃないですか?」
 一人の青年がフェルサーを呼び止めた。聖衣はまとっているが、まだ少年らしさの残る若い男だ。
「俺を知っているのか?」
「エルシドさ…まの兄弟子だったフェルサーさんですよね? …俺、あのときカタラニアにいたんです」
「あのとき、か」
 フェルサーは改めて青年を見直した。
「エルシド様の戦いぶりを見て、俺も聖闘士になりたいって思ったんです。でも最近やっと聖衣を授かったのに、俺たちはなかなか任務に連れて行ってもらえなくて…」
 青年は不満そうな表情でぼやいた。
「俺『たち』?」
「あ、俺、エルシド様の部下ですから。俺だけじゃないところが残念ですけどね」
 フェルサーは少なからず驚いた。あのエルシドが部下を受け入れるとは。それも複数。
「エルシド様は昨日任務で出かけちゃったところなんですよ。しばらくかかりそうな話でしたけど…」
「そうか。いや、いいんだ。たまたま通りかかっただけだからな」
「いらしてたのを後で聞いたら、きっとエルシド様残念がりますよ。じゃあ、近くまで来たときにまた寄ってくださいよ。あ、俺は船尾座の聖闘士のラカーユです。カタラニアの近くにいた鍛冶屋の息子でした。親父はあのときエルシド様に剣を差し上げたんですよ。もちろんエルシド様は使わないですけど。でも大事に持ちかえってくれたんですよね。親父になんかいろいろ言われたんで、『戒めになる』って言って」
「戒め、か。あいつらしいな」
 聖域のはずれまで青年は送ってきた。
「…フェルサーさんは今どうしてるんですか?」
 人懐こく話していた青年が、ふと真顔になって聞いてきた。
「まあ、いろいろだ。俺は俺にできることをしている。俺の道は聖闘士の道ではなかったのでな」
 見送る青年に軽く手を上げて見せ、フェルサーは聖域を去った。

 あれから何年が経ったか。
 聞くところによると、冥王との激闘、聖戦は、ほとんどの聖闘士を失ったものの、聖域側の勝利に終わったという。その証拠に、今も地上は変わりなく存在している。ただ、アテナと聖闘士たちが命を賭けてこの地上を守ったということは、ほとんどの者は知らないのだが。
 フェルサーは再び聖域の近くにやってきていた。かつて活気にあふれていた聖域は人影もまばらで、遠目に見える建物もかなり傷んでいるものがあった。聖域にも冥闘士の来襲があったようだ。そもそも多くの闘士たちが冥王ハーデスの拠点に打って出て行ったが、再び帰ってきた者はごくわずかだったという。
 フェルサーはしばらくとどまって、聖域の復興に手を貸すことにした。

「山羊座の黄金聖闘士様とお知り合いだったのですか?」
「ああ、昔な」
 兵士の一人と、建物の再建作業の合間に話していたときだった。
「あの、ではちょっと見ていただきたいものがあるのですが」
 導かれて磨羯宮に足を踏み入れた。エルシドの守護していた宮。主がいなくなって無人の宮。
「これです」
 櫃の中に、二振りの刀剣が収められていた。
 一本は鞘がなく、布に包まれた東洋の刀。峰の残したものだ。もう一本は鞘に入った剣。これはおそらくラカーユの言っていた、父親がエルシドに贈ったというものに違いない。
「私の前任者が聞いたところによると、こちらの剣は山羊座の黄金聖闘士様の部下だった船尾座の白銀聖闘士様の形見だったとか。親族の方をご存知ですか?」
「いや…、だが心当たりがなくはない」
「では、もしよろしければお持ちになってはいただけませんか。聖域にあっても使う者もおりませんし」
「わかった。できれば届けよう」
 フェルサーは剣を取り、同時にもう一本の刀も手に取った。兵士は何も言わなかった。

 復興作業が一段落したところで、フェルサーは聖域を出ることにした。慰霊地に寄ってみると、真新しい聖闘士の墓標がたくさん立っていた。
 黄金聖闘士の墓標はすぐにわかった。フェルサーはエルシドの墓標の前に立った。ただ、ここにエルシドの遺体は埋まっていない。エルシドの体は聖戦の折、相討ちとなった夢神とともに滅し、聖衣だけが聖域に戻ってきたという。
 フェルサーは峰の刀をエルシドの墓の後ろに突き立てて埋めた。
「お前は聖剣を完成させたのだろう? 峰もそれを見届けたのだろう…ここで安んじて語らうといい」
 もう聖域に来ることはないだろう。フェルサーは振り返らずに慰霊地を後にした。

「で、お前さんはわざわざそれを届けにやってきてくれたってわけか」
 ラカーユの父親を探すのは簡単ではなかった。かつてカタラニアがあった辺りからはじめ、各地を訪ね歩いてようやく見つけ出したのだった。
「なにそんなに俺の顔を見ているんだ?」
「いや…」
 似ていない親子だな。内心フェルサーは苦笑していた。ラカーユには一度会ったきりだったが、あのすっきりした青年と、目の前のどちらかといえばごつい、傷痕のある男との印象はあまり重ならなかった。
「ま、あいつも聖闘士とやらになったそうだな。少しはあのお人の役に立てたかどうか」
「俺も直接は知らないのだ。申し訳ない」
「なに、お前さんがあやまることじゃねえ」
 ラカーユの父親は剣を抜いて見た。
「使った形跡はねぇな」
「聖闘士は己の肉体のみを武器とせねばならんからな」
「ああ、あの闘技大会でも手刀だけで闘ったっていうからな」
 父親は目を細めて刃を見た。
「だが、手入れはちゃんとしてたみてぇだな」
「その剣を見て、自らの戒めにしていたそうだ」
「はっ、相変わらず固い男だったようだぜ。使わない剣にな」
 父親はあきれたように、だが感心しているようにも聞こえる言葉を吐いた。
「で、お前さんも聖闘士とやらなのか?」
「いや、俺は違う」
「そうか」
 ラカーユの父親は剣を鞘に戻すと、ぽんとフェルサーに渡して寄越した。
「ならお前さんが持ってろよ。そのガタイだ。用心棒稼業もやるんだろう?」
「俺は…」
「使いたくなきゃ使わんでもいい。だが持ってるだけで無用な争いが防げるかもしれんだろ」
 もう人を傷つけることはしたくなかった。だが父親の言うことにも一理あると思い、フェルサーは受け取ることにした。
「かたじけない…」
「いいってことよ。不肖の息子のことを知らせてくれた礼だ」
 良い知らせではなかったのだが。フェルサーは今一度、黙って頭を下げた。

「道中気をつけてな」
「あなたも達者で」
 その背に、かすかな呟きが聞こえた。
「まったく親不孝にもほどがある…親よりも先に逝く奴があるか…!」
 フェルサーはゆっくりと歩いていった。
 己の道の先へと。


---


山羊座の聖衣ってきっと戻ってきてるよね。水瓶座とかも。
でないと、シオン様が一から作ったことに。「神話の時代から破壊されてない」って言うし。

聖戦後、エルシドの関係者ってフェルサーしか残っていないんですよね。外伝の一般人語り手枠がラカーユだったので、彼もいなくなってるし。いや全滅かと思っていたんで、これでも残った人がいて何とかなったのですが。
フェルサーがラカーユと絡まないのは惜しいので、聖戦前もちょっとつけてみました。親父さんだけではややむさくるしいし(笑)。

外伝その後シリーズ、童虎編が単行本になるのはかなり先そうなので、しばらくお休みかな。

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プロフィール
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MCBT
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非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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