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Posted by - 2024.05.11,Sat
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Posted by MCBT - 2012.07.25,Wed
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外伝その後シリーズ第5弾のもう一つの話。聖戦終結の数年後。
フェルサーと、うちのヒロインのティソナの「if」話の方。

「主編」パラレルの「if」話、「もう一つの明日」「希望―明日のその先へ」につながる話。
ですが、主編や上記の関連話を読んでいなくてもわかるように書いたつもりです。エルシドに女、とかが許容できれば。
えーと、俺得の最たるものなのでお気の向いた方のみどうぞ。

外伝5巻関連話、これで最後、かな。
部下のこととか、いろいろ総まとめ的に。
他の話と内容的にかぶっているところもありますが、ご容赦ください。

 


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---


 聖域に行くつもりではなかった。聖域からさほど遠くないところにある村。たまたま近くを通りかかったに過ぎなかったのだが。ふと目に入った子どもがいた。まだ10歳になるかならないかぐらいの女の子。柔らかそうな黒い髪。それだけならこの辺りではさして珍しくはない。だがその目、淡い紫色の細く意志の強そうなその目つきが、フェルサーの足を止めさせたのだ。
「エスペランサ」
 母親らしい女性がその子を呼んだ。エルシドの故郷、スペインの名前だ。やはり、あれは…。女性が振り返って、立ちすくんでいるこちらを見た。うら若いとは言えないが、まだ若さの感じられる顔。女性や子どもの中には、いや大の男でも、大抵の者は、火傷の痕の残るフェルサーの顔を見ると怖がったり、ぎょっとしたりするものだった。だがその女性は全くそのような様子を見せずに、にこやかに話しかけてきた。
「旅の方ですか? 何かお困りのことでも?」
「あ、いや…」フェルサーは口ごもった。「あちらの子は…貴女の子か」
「ええ」女性は答え、そして続けた。「もしかして…フェルサー様では?」
「俺のことを知っているのか」
 フェルサーはその女性を見つめ直した。小柄でそれほど人目を引く容貌でもない。だがその目は澄んだ光を放っていた。
「お聞きしたことがあります。私は先の聖戦の前、南の冠座の聖闘士を務めておりました。山羊座の黄金聖闘士、エルシド様の部下の一人でした」
「では、あの子は…」
 女性はうなずいた。「エルシド様には…一介の部下以上に…お心をかけていただきました。あの子はエルシド様の娘です」

「どうぞ」
 女性の家に招じ入れられて、彼女の出す茶をすすった。
「ほう。うまい」
 人心地ついて、フェルサーは息を吐いた。
「恐れ入ります」
 エルシドの部下だった女性―ティソナという―は、控えめににこりと笑った。心の暖まるような、感じの良い笑顔。
「お口にあって良かったです。それは、エルシド様も気に入ってくださったものです」
「そうか…」フェルサーは改めてティソナを見た。「しかしエルシドに部下がいたとはな」
「私たち部下は皆、エルシド様に憧れて、無理に押しかけたようなものでしたから」ティソナは笑った。「あの素晴らしい『剣』に」
 ティソナの顔は、一瞬、道を求める者のそれに見えた。「私たちは皆、聖闘士としてエルシド様のお力になりたいと思っていました。いつも、一緒に連れて行ってくださらないと文句ばかり言っていましたっけ。でも自分の力量を敵が遙かに超えているときは…」ティソナはやや辛そうに言葉を切った。「…聖戦でエルシド様が夢神と対峙されているとき、待機命令に反して駆けつけた私の仲間たちは、三人とも一瞬にして夢神に倒されたそうです。そのときもし私もいたら、同じ道を辿っていたと思います。エルシド様はそれを心配して待機を命じておられたのでしょうけど、聖闘士なのに守られていなければならないなんて…私たちはあまりにも力不足でした」
 ティソナは顔を上げた。「それでも彼らが、エルシド様のお心の負担になっただけではなく、せめて、エルシド様が敵を倒す意欲をかき立てるのに役立ったと信じたいです」

 フェルサーは窓から外を見やった。子どもたちの遊ぶ声が聞こえる。
「貴女は、あの子を聖闘士にする気はないのか?」
 ティソナは頭を振った。「あの子には父親のことは折にふれ話しています。私のことも…数年前にあった出来事から、うすうす察しているでしょう。あの子は私に似ず、聡い子ですから」知らず、笑みがこぼれる。「私の両親は、私の目の前で冥闘士に殺されました。私には動機が…『守れる者』になりたいという動機がありました。聖戦も終わって、あの子がそんな動機を持つことがなさそうなのは喜ばしいことです」
「聖闘士はもう必要がないと?」
「いえ、そうは思いません。そういう世が来れば良いのでしょうけれど」
 いずれ再び聖戦の時は巡ってくるだろう。そのときまでつなぐためにも、そして『平時』であっても起こる凶事に対処するためにも、この世の中には常に聖闘士は必要なのだろう。
「あの子自身が自分で考えて、聖闘士になりたいと言ったら止めることはできませんけど…。『守る者』と言っても、聖闘士の道は修羅の道です。その道をあの子に強いて歩かせたいとは思いません。できれば穏やかな生を過ごさせてやりたいというのは、親の…私の欲かもしれませんが」
「貴女は、今は聖闘士ではないのか?」
「はい。私も聖闘士として全うしたいと思っていましたけど…あの子ができて、新たな命を育むことも…一般人としてただ生きて営むことも、戦うことと同じように、いえむしろ戦うより有意義なことなのかもしれないと思うようにもなりました。数年前に一度だけ、この村が洪水に襲われそうになったときに、聖衣が来てくれたことがありましたけど」
 そのときに聖闘士としての力を、小宇宙を使ったという。彼女の聖衣の後継者はまだいないようだ。聖戦が終わった今は、持ち主のいない聖衣が数多くあると聞く。
「…でも今はただ、自分ができる一番のことをしようと思っています」
 真っ直ぐに前を見据えて語られるその言葉。フェルサーは新しい茶を注ぐティソナの手を見た。一見華奢な手に見えるが、微かに細かい傷痕が残っている。聖闘士候補生として修行をした経験のあるフェルサーにはわかった。それはかつての自分やエルシドと同じく、手刀使いとして鍛錬した手だった。そして、茶を受け取るときにふれたその手は今も固く、決して家事や畑仕事だけをしているわけではないことを物語っていた。

「フェルサー様こそ、今どうしていらっしゃるのですか?」
 聖域での習慣の名残か、ティソナは丁寧な物言いを崩さなかった。エルシドの『兄弟子』だった自分に対して。聖域に背き、エルシドと戦ったこの自分に。
「貴女は…カタラニアでのことを聞いているのか」
「はい。それでもエルシド様は…敬愛する方としてフェルサー様のことを語っていらっしゃいました」
 あいつはそういう男だった。俺と戦うのは…あいつにとってはきついことだったろう。任務のためならためらわぬと言い切っていたとはいえ。峰のためにと目が眩んでいた俺は、あのときあいつに辛く当たったというのに。
「俺は…少しでも他人のためになることなら、俺にできることは何でもしている。聖闘士の道とは違うがな」
 カタラニアでの己の凶行の償いに、フェルサーは各地を流れながら、人々に求められることをして回っていた。主にその巨体を生かしての力仕事だったが、根気のいる開墾や土木作業のような単調な重労働に従事することもあった。どれほど大変な仕事であっても決して文句は言わず、最低食べていける分しか報酬は受け取らなかった。それを、自分に課していた。
「でも…良かったです。フェルサー様がお元気でいらして」
 ティソナは微笑んでこちらを見た。
「そうかな」
 カタラニアで凶行をなした自分が生き残り、それを正したエルシドはもういない。それでも。エルシドが心にかけたこの命。
「そうです。エルシド様も…きっと喜ばれたと思います」
 暖かい、日の光のような笑顔。ああ、あの仏頂面の男も、きっとこの笑顔に慰められたに違いない。

「あの、できればお聞きしたいことがあるんですけど…」
 今までとは打って変わって、ティソナがおずおずと聞いてきた。
「なんだ?」
「あのう…エルシド様が修行中だったときに…一緒にいらしたという峰さんって…どんな方だったんでしょうか…」
「ああ」
 やはり気になるものなのか。おそらくカタラニアの一件の後、ついていって部下の一人になったという者にでも聞いたのだろう。それともエルシド自身が無自覚に語ったのか。
「峰は…そうだな、口調だけで言えば、俺にもエルシドにも男のような口をきく娘だったな。身なりも作業衣のようなものをいつも着ていて、あまり華やいだ格好はしなかったな」
 あの幻影としての姿を除いて。
「でも、おきれいな方だったのでしょうね」ティソナはつぶやくように言う。
「東洋の血が入っていたから異国風の顔立ちだったが、独特な気品があったかな。立ち居振る舞いにも」
「東洋の。あの、刀の…」
「見たのか、あれを」峰の魂が宿っていた、あの、鈴のついた、いわくありげな錆びた刀を。
「はい」
 聖闘士には必要のないものだが、エルシドは持って帰ったようだった。もちろん使うためではなく。
「だが貴女が気にすることはないと思うがな。ずいぶんと前のことだったし、そもそもエルシドは峰のことはともに技を競いあう好敵手としてしか見ていなかったようだったしな」
 感情をあまり表に出さないエルシドが、本当のところどう思っていたかはわからない。だが十中八九はそうだったろうと思う。峰の方は…。
「それでも…ちょっと羨ましいです。そうやってエルシド様と対等に競いあえるなんて」ティソナはひっそりと言った。同じ聖闘士と言っても、黄金聖闘士と下級の聖闘士との差は限りなく大きい。
 そして気をとり直したように、表情を変える。
「エルシド様の…お若い頃ってどんな風だったんですか?」
「あまり変わらなかったと思うぞ。確かに背は伸びたが、あの無愛想なところは昔からだ」
「そうなんですか」
 ティソナは楽しそうに笑った。
「貴女と峰はもちろん全く違うが…自分の求めるものを追求しようとする真っ直ぐな態度は似ているかもしれんな」
 エルシドはこの女性(ひと)のそういうところに惹かれたのかもしれない。
「私はただ…できるなら、エルシド様の隣に立つ資格のある者になりたいと思っていただけです。守られて後ろにいるのではなく」
 顔を上げて前を見つめる目に、夕日がきらめいた。

 日が傾いてきていた。フェルサーは腰を上げた。
「すっかり長居をしてしまったな」
「お泊りになっていかれません?」
「いや、それは貴女の立場としてまずかろう」
「あら」ティソナはくすりと笑った。「私のやることにとやかく言う人はいません。数年前からは特に。それに、その前から私が男の方を、それも気に染まぬ男を家に入れたりしないことは皆知っています。昔はうるさく言い寄ってくる輩もいましたけど」
 引いたとはいえ聖闘士だった身だ。小柄な女と見て痛い目にあった男もいたのだろう。
「貴女は…大丈夫だな」
「はい。後ろは見ないと…前を向いて生きると、エルシド様に約束しましたから」
 穏やかに、こちらを見返す。
「お気をつけて」
 フェルサーは立ち止まってティソナを振り返った。
「俺には貴女が聖闘士の道から外れたようには見えないが」
 ティソナは答えなかった。
「…余計なことだったらすまんが」
「いえ」
 ティソナは首を振った。だが夕日を浴びて、その目は朱く輝いていた。今もなお、道を求めていることを語るその目。
 フェルサーはエスペランサを見やった。年齢の割にしっかりしているように見える。遠からず、あの子に手のかからなくなる日が来るだろう。この女性(ひと)がここに留まっているのは、そう長いことではない気がする。フェルサーには、そう思われてならなかった。


---


相変わらず無駄に長い「if」話。
“May I help you ?”って日本語になりにくいよね…。

ティソナが聖域に戻るきっかけの一つになったエピソード、という位置づけ。
出戻りになるから、朝日じゃなくて夕日にしてみました。
語り手だけどフェルサーが影薄いかな。
峰さんのことは…やっぱり気になってたよね。「彼女」としては。
フェルサーから見るとエルシドはあんまり変わらない無愛想→相変わらずの鉄面皮になるわけですが、えーかわいかったじゃんか!

アニメの方ではツバキがエルシドと最期に話すのですが、あの場合、言うとしたらまず、「ご命令に反し申し訳ありません」だろう! それから「お力になれず…」ではないのか?
相手と自分たちの力量をある程度推し量らなきゃいけないんじゃないかなあ。気合いでただ突っ込めばいいってもんじゃないんじゃあ…。テンマもやってるけど、テンマは主人公属性あるしな。いろいろ特別だし。
まあ、エルシドでもガーディアンズ・オラクルをまともに喰らったら駄目でしょうけど。
あのシーンは片腕で不自由そうなエルシドの方につい目が行きがちなんですが。

聖闘士になるには、なりたいという意志だけでなく、やっぱり持って生まれた小宇宙を使える才能も必要だと思います。才能のある者の血縁者にその才能が現れやすいものなのかはわかりませんが、可能性は高いかも。聖闘士どうしの子どもだったら…? もっとも、聖闘士の人はほとんど子孫を残さずに死んだりしそうですが。

峰さんの刀についていた鈴が気になります。御幣みたいのでくっついていたやつ。魔除けっぽいけど、西洋の神様は祓えなかったか?
フェルサーは峰の夢が道半ばで潰えたことに非常にショックを受けたわけですが、それをつなぐためにエルシドをも殺そうとするのですよね。修行地にいたときは二人ともにかわいがっていたみたいなのに。なんでそんなにエルシドには冷たくなったの? 単行本で多少補正されたとはいえ、最後に別れるときも割と素っ気なかったしなー。やっぱり、フェルサー→峰→エルシド、てこと?

 

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HN:
MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

何かありましたら
mcbt★br4.fiberbit.net
まで(★を@に)。
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