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Posted by MCBT - 2011.05.19,Thu
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

オリキャラヒロインの「主編」のパラレル「もう一つの明日」の娘視点バージョンとその後日談。
誰が読むんだよ…な話なので、こっそりあげておきます。



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 私は父を知らない。
 父は私が生まれる前に亡くなった。私が生まれる頃、「聖戦」と呼ばれる戦いがあって、父は地上の平和を守る女神の戦士「聖闘士」の一人だったという。その拠点であった「聖域」は村からそう遠くないところにあったが、そこに行ったことはなかった。
 母は一人で私を育ててくれた。私が聞くと母は父のことを話してくれたが、その話は長くはなかった。
「私もこれ以上は知らないのよ」
 母はそう言って笑った。村には夫を亡くした女の人が他にもいて、しょっちゅう泣いている人もした。母はよくそういう人を慰めていたが、母自身が自分の夫、私の父を思って泣いているのは見たことがなかった。小柄で働き者の母は、よく笑う明るい人だった。暮らしは決して楽ではなかったが、泣き言を聞いたことはなかった。母に求婚する者もいなくはなかったらしいが、母は生活のために再婚することはしなかった。
 母には毎朝早く起きて必ずすることがあった。それは闘技を生業とする者の準備運動のようで、傍目にもかなり激しいと思われるものだった。何故そんなことをしているのか聞いたことがあった。
「習慣のようなものよ」
 母は笑ってそう言ったが、それ以上は答えてはくれなかった。
 もう一つ、母には他の村人にはない習慣があった。一日の仕事が終わった夜、よく何かの書物を熱心に読んでいることだ。ときどき行商人と交渉して書物を買ったりしているようだった。この村では珍しく母はギリシャ語の読み書きができたが、母が読んでいるものは外国語のことが多かった。何をしているのかと聞くと、勉強だと答えた。
「これはあなたのお父様の国の言葉。こっちは昔のご本によく使われている言葉よ」
 たまに村長に頼まれて何かの代筆や代読をしていたが、さして必要があるようには見えなかった。私の名前は父の国の言葉で、母はその言葉を私にも教えてくれた。
「少しはつながっていたいから」
 遠い異国である父の国の言葉を勉強している理由を母はそう語っていた。

 あの出来事が起きたのは、私が五歳ぐらいのときだった。雨が続き、村は洪水の危機にさらされた。
「皆さん、早く高台に避難して下さい!」
 何かをじっと聞いていたような様子の後、母は私を引き寄せて言った。
「…行ってくるわ。この村を守るために」
 いつもとは違う、きっぱりとした母の声。その静かな決意を感じ、私はただうなずいた。
 高台から見下ろしていると、村が金色の輪で囲まれ守られているのが見えた。そしてその中心から金色の光が走った。その光が川をせき止めていた岩を砕いたのだと後に知った。冠のような金色の光の輪は、やがて静かに消えていった。雨がやんできたとき、私は母の友人とともに母を探した。村の中ほどにある丘に母は倒れていた。淡い黄金の光が、その体を守るように包んでいるのを確かに見たと思った。一瞬、そこに黒髪の背の高い男性の姿が見えた気がした。
 父と同じく、母もかつては「聖闘士」と呼ばれる戦士であったということを知ったのはそれから間もなくのことだった。聖闘士の特別な力をもって村を救った母に、村長をはじめ人々は恐縮し感謝をしたが、母は「できることをしただけ」と首を振り、今まで通りの扱いを望んだ。生活は次第に元に戻ったが、それ以降、母はなんとなく村人から一目置かれる存在になった。
 その出来事以来、母も少し変わった。時折母はじっと遠くを見つめるようになったのだ。ただぼんやりしているのではなく、どこか確たる場所を見据えているようだった。やがて私は察した。母が見ているのは、あのとき母が倒れていたところから飛び立った光が向かった場所、父と母がかつていた「聖域」なのだと。

「母さん、私のことはもう大丈夫だから、やりたいことをやりに行っていいよ」
 あれから十年以上が過ぎ、私も自分で働けるようになっていた。母は少し驚いた顔をして私を見たが、くすりと笑って言った。
「あなたには敵わないわね…すっかりお見通しってわけね」
「ずっと見ていたでしょう。やり残したことがあるっていう顔して」
「そうね…」
 母は静かに笑った。あの日命をかけて村を守ると決めたときの顔に似ていた。
 それからしばらくして、母は村を出て行った。聖域へと。
「すぐに戻ってくるかもしれないわよ」
 母はそう言ったが、私はそうは思わなかった。案の定、母は戻って来なかった。

 私が初めて聖域を訪れたのはそれから二、三年後のことだった。結婚の約束をした人を母と会わせるために。愛想も悪く、とりたてて美人でもない私を気に入ってくれた実直な人と。
 聖域は不思議な場所だった。このところ戦争などはないはずだったが、闘技場のような場所で体術の訓練をしている者がたくさんいた。母の名前を出して尋ねると、そのうちの一人がそういう場所の一つに案内してくれた。
「ほら、そこ! まだこんな岩一つ割れないの」
 聞き覚えのある声が響いていた。
「聖闘士になりたければこのくらいの岩は割ってね」
 その人はそこにある岩を指で突いた。ピシリとひびが入ったかと思うと、岩は粉々に砕けた。
「じゃあ午後は座学の後、各自今言ったことを実践練習。解散!」
 案内してくれた者がその人の傍に寄って耳打ちすると、その姿がひょいと振り返った。
「あら。よく来たわね」
 その顔は銀色の仮面で覆われていた。
「ここでは女性闘士は仮面をするのが決まりなのよ」
 驚いているこちらに笑いを含んだ声で話しかける。
「…で、そちらの方は?」
 私が紹介し、彼は緊張しながら挨拶をした。
「それはおめでとう」
 母は嬉しそうに言った。顔は見えなくても、心からの笑みを浮かべているのがわかった。

 食堂から、食事を少し離れた外の草地へ持ち出した。母は周囲を確認すると仮面をはずした。
「これでいいわ。改めて、よく来たわね」
「はずしてもいいの?」
「愛する者には顔を見せてもいいのよ。お前が選んだ人なら私にとっても家族同様、愛する者の一人でしょう?」
 私が聞くと、母は片目をつぶって答えた。そして、花がぱっと開くような満面の笑みを浮かべた。昔と変わらぬ、母らしい笑顔だった。
「この子を選んでくれてありがとう」
 心を込めて、母は彼にその笑みを向けた。

 母はあまり変わっていなかった。ただ、二の腕に新しい傷があるのが見えた。仮面をはずしたことではっきり見えるようになった顔の左側にある古い傷痕に目が行った。そう言えば、母の体には他にも傷痕がいくつもあったっけ。昔から不思議に思っていたものだ。
「その傷は?」
「ああ、もうほとんど治っているのよ。何でもないわ」
 聖域で母がどんな仕事をしているのか、私は知らない。母は嘘はつかない。でも言うまいと思うことは決して言わない。
「来てくれたのが今日で良かったわ。明日からまたちょっと出てしまうところだったから」微笑を浮かべながら、さらりと付け加える。「幸せな報告が聞けて嬉しいわ。私も働く甲斐があるってものね」

 三人で四方山話をしながら食事をした後。
「お前また背が伸びたんじゃない?」
 立ち上がった私を見て、母は少し悔しそうに言った。小柄な母の背を追い越してからしばらく経つ。
「まあ、あなたのお父様も背が高かったものね」
 懐かしむように、母は言う。そのとき、背の高い、黒い法衣の人物がやってきた。母がさっとひざまずく。
「教皇シオン様」
「ああ、立ってくれないか」
 母に倣ってひざまずいた私たちにその人は言った。私が立つと、その人―教皇はかぶっていたマスクを取った。若く見えるが落ち着きのある穏やかな顔。
「あなたがエルシドの娘か」
 教皇は私の中に面影を見るように言った。
「彼は私の同僚、力強い先輩だった。常に真っ直ぐに己の道を貫いた人物だった。彼の同僚であったことは今でも私の誇りだ」
 私は黙って頭を下げる。私の傍らにいる人を見て、教皇は微笑んだ。
「私からも祝福を。あなたも己の道を迷わずに進まれるが良い」

 聖域のはずれまで母は送ってくれた。
「元気で幸せに暮らすのよ。二人で助け合って、ね」
 またおいでとも、また来るとも言い合わなかった。巡り合わせがあるならば、また。
 私たちはそれぞれの道を行くだろう。それでもどこかでつながっている、命の道を。希望を持って。


---


エスペランサちゃんのビジュアルがどうしても女エルシドになってしまう。ごめん。
髪質はあんなに硬そうな逆立った感じじゃなくすれば少し印象が変わるかなあ。目つきは…。
パラレルのオリキャラに何を苦労しているんだか。

まだ小宇宙が使える、自分にはまだできることがある、と知ってティソナは聖域に帰ろうとするのだと思う。
聖闘士としての務めがどんなものか、聖域関係者でない者にはきっと言わないんじゃないかな。嘘はつかないけど必要でないことは言わないという。

ティソナを殺しそうになって困る。
聖闘士ならそう遠くないいつかに訪れるものだけど。
墓石の表示を考えていて、階級と星座の順番をどうしよう?と思いました。
というのは、アルバフィカ外伝第1回では「RUGONIS / PISCES / GOLD SAINT」となっていて、従来の「名前 / 階級 / 星座 SAINT」という方式とは違っているからです。
まあ青銅や白銀の墓石はもともと名前と「BRONZE」「SILVER」しか見えない場合も多いのですが。
「TIZÓNA / BRONZE / CORONA AUSTRALIS SAINT」ってバランス悪いよね(ティソナが青銅だった場合)…ルゴニスさん方式で「TIZÓNA / CORONA AUSTRALIS / BRONZE SAINT」の方がしっくりくるような。「SOUTHERN CROWN」でも同じだけど、「SOUTHERN CROSS」の人の墓はどうなっていたのかなあ(映画版には墓石の描写はなし)。「南十字星(南十字座)」はラテン語では「CRUX」で「南」はつかないんだけど。「南の魚座」「南の三角座」とかは出ていないしね。

そう言えば映画版第1作、なんと来月ミュージカルになるのですよね。びっくりです。

 

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MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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