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Posted by MCBT - 2011.05.18,Wed
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

「主編」とは別の結末だったら、というもう一つの話(×オリキャラヒロイン)。

「主編」のパラレルですが、「女聖闘士の生活(1)」 「聖闘士の恋人―女聖闘士の生活(2)」を踏まえてます。
これも「100の質問」からのスピンオフ的なもの。

本文に少し、後ろにいろいろ追加・修正。
アニメ第2章第4巻、「週刊少年チャンピオン」で始まった黄金聖闘士外伝の感想などもちょっぴり(2011.5.20)。



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---


 確実に、自分の方が先だと思っていたのに。

 ティソナがエルシドと過ごすようになって二年が経っていた。随分と気をつけていたつもりだが、いろいろな方策も万全ではない。子ができたことに気づいたティソナは聖衣返上を申し出た。
「返上せずとも…貴女が戻るまで待っても良いのですよ」
 女神は微笑みを浮かべながら言った。だがティソナは首を振った。
「聖闘士として全うしたいと思っておりましたが、働けなくては意味がありません。聖戦も佳境となったこの折りに、聖闘士の数を減らすことになって、誠に申し訳ございません。新しい候補生が見つかり、資格十分と判断されましたら、その者にどうぞこの聖衣をお与え下さい。かなうならばいつの日か再びここに戻り、何かのお役に立ちたいとは思っておりますが、どうかそれはお待ちになりませぬよう」
 聖衣は聖域の預かりとなり、ティソナは聖域を出ることにした。子どものことをエルシドは喜んでくれたが、足手まといにはなりたくなった。聖域にもいつ冥闘士が攻めてくるともしれず、気にかかる者を身近に置くことがエルシドの枷になってはたまらない。
「後悔はしたくないんです。私なりに、前を向いて生きようと思います。だから…」
 ティソナの決心を、エルシドは黙って受け入れた。
『この聖戦が終わったら』
 その言葉はどちらも口にしなかった。
「体に気をつけろ。…頼んだぞ」
 微かな笑みとともに、告げられたのはそれだけ。
「はい」
 ティソナも微笑んで答えた。頼まれたのは二人の命の証たる、この身に宿る新たな未来。
 それが、今生の別れとなった。

 聖域で働く女性は子ができたときは実家に里下がりするのが通例だが、ティソナにはすでに「実家」がなかった。あまり遠くに行く気もなかったので、ティソナは聖域からさほど遠くない村にいる友人を頼った。聖闘士の恋人に死に別れた彼女は、今は一人で元気に子どもを育てながら働いており、ティソナを喜んで迎えてくれた。彼女の家の裏手の納屋を借り、とりあえずそこで暮らすことにした。

 ふと何かがはじけたような気がして、ティソナは顔を上げた。
「ラスク? ツバキ? …ラカーユ?」
 別れるとき、「俺たちがエルシド様のお力になるから」と言っていた彼ら。
 遠く離れていても感じられる強大な小宇宙。その前に一瞬で砕け散った同僚の命。そして。
「エルシド様…」
 神の小宇宙とともに散った黄金の輝きを、ティソナは確かに感じたと思った。

 後日、聖域から知らせがもたらされた。
「わざわざお知らせありがとうございます」
 ティソナは使者を穏やかに迎え、女神の配慮への感謝を託した。ティソナは泣かなかった。あの瞬間も、こうして正式に知らせがもたらされたときも、一人になった後も。友人はティソナを気遣ったが、ティソナは微笑んで言った。
「平気よ。…本当は平気じゃないけど、平気」
 後ろは見ない。どんなときでも前を向いて生きようと誓った。聖域を出るときに。
 あの後、エルシドの姿を見た気がした。裂け、血に染まったマントに隠れて右腕の先は見えなかった。その姿はしばらく黙って佇んでいたが、やがて消えた。
『頼む』
 聞こえるはずのない声が、耳に残っていた。
 月満ちて、ティソナは無事に女の子を産んだ。エスペランサ―希望―と名づけた。秘かに学んでいた、エルシドの故郷の言葉だった。

 数年が過ぎた。苛烈だった聖戦も終わり、ティソナと娘は静かに暮らしていた。娘は父親譲りの黒髪と紫の瞳を持った、これも父親譲りの寡黙な少女として育っていた。ティソナは娘には惜しむことなく愛情を注ぎ、折にふれ父親のことを話した。だがその都度思う、語れることのなんと少ないことか。それでも真の思いは変わらない。

 その年は雨が多かった。
 次第にふえる川の水量で川沿いの崖が崩れ、川の流れが変わった。
「これは危ないぞ」
 一向におさまらない雨に、村人は眉を曇らせた。聖域から遠くない村のこと、こんなときにはよく聖闘士に来てもらったものだったが、聖戦でほとんどの聖闘士を失った聖域にはまだ十分な闘士が育っていない。知らせは送ったものの、間に合うように聖闘士が送られてくる望みは薄かった。雨が一段と強く降るある日、山から地鳴りが聞こえてきた。聖闘士として鍛えられていたティソナの耳には、それがはっきりと感じられた。
「皆さん、早く高台に避難して下さい!」
 この村にはずいぶん世話になった。自分に何かできることがあるならしなくては。人々の避難の誘導をしつつ、ティソナは決心した。娘を引き寄せ、その目を見つめて言った。
「…行ってくるわ。この村を守るために」
「わかった」
 娘はうなずき、母の決意を受け止めた。

 ティソナは村の中ほどにある丘の上に立った。久しぶりに小宇宙を燃やして川の状況を探る。まずい…。村のかなり近くまで濁流が押し寄せてきている。村に流れ込むのも時間の問題だ。今の自分で守りきれるか。せめて聖衣があれば…。そう思ったときだった。きらめく光が飛んできて、ティソナの体を覆った。
「南の冠座(コロナ・アウストラリス)…! お前、まだ私を覚えていてくれたのね」
 きちんと手入れされていたらしい聖衣は輝いてティソナの呼びかけに応えた。聖戦が終わった今、聖域には全星座の聖闘士は揃っていない。南の冠座の聖闘士はまだ見出されていないのだろう。
「では…行くわよ。グリタリングサークル…!」
 ティソナの体を中心に金色の光の輪が生まれ、それが次第に広がってゆく。小宇宙を最大限まで燃やし、村全体を包み込む。重圧に体が震える。ふと背後に力強い黄金の輝きを感じて、少しだけ負担が軽くなった気がした。ティソナは微笑みを浮かべ、音を出さずにその名を唇に上せた。だが後ろは見ない。前を向いて生きると約束したから。大切なものを守るために。これが私の貫く道だから。ティソナは川の流れをふさいでいる岩を見定めた。あれを砕けば流れは村に入り込まない。すでに発している小宇宙で限界に近いのはわかっていた。右手を構える。誰かの手が、そっと添えられる感じがする。
「…クリスタルカットラス!!」

 高台から村を見守っていた者たちは、村がきれいな金色の輪で守られているのを見た。上部が波打つ金色の光の輪は、あたかも冠のように見えたという。そして中心から一条の金色の光が走り、川をせき止めていた大岩を砕いた。
 雨がやみ、川の流れが元に戻ると、ティソナの友人はその娘とともにティソナの姿を探した。村の中ほどにある丘から、聖域の方向に向けて光が飛び立つのが見えた。そこに行ってみると、小宇宙を使い果たしたティソナが倒れていた。エスペランサの目には、ティソナの体を守るように、黄金の光が包んでいるのが見えた。そこに誰かの顔が見えたような気がした。友人が抱え起こすと、ティソナは目を開けた。それとともに黄金の光も消えた。
「大丈夫」
 ティソナは娘と友人に微笑みかけた。

 この石段を登るのは久しぶりだ。以前はよく登ったものだったが。聖域は15年前に比べると人が少ない気がしたが、聖戦直後はほとんど無人だったというので、これでもずいぶんと人がふえたのだろう。十二宮はまだ多くが無人のようだった。わずかに小宇宙が感じられるのは、主のいない黄金聖衣がそこにあるからに違いない。ティソナは無人の宮の奥に、軽く会釈しながら登っていった。磨羯宮で足を止めた。ここもまだ無人だった。微かに感じられる懐かしい山羊座の聖衣の小宇宙。深く一礼し、ティソナは上へ登るため磨羯宮を出ていった。
「お久しぶりでございます、教皇様」
 教皇への面会の願いはすんなりと通った。
「貴女も息災で何よりだ。…顔を見るのは初めてだな。よく知っていたと思っていたが」
「ああ、そう言えばそうですね」
 ティソナは思わず笑った。
「で、今日はまたわざわざ何を…?」
 シオンの問いに、ティソナは居住まいを正してひざまづいた。
「子どもも一人前となり、私もようやく体が自由になりました。お邪魔でなければ、どうか私を聖域の…貴方の力にならせてください、教皇シオン様。この細腕では頼りないでしょうけど…。それでも何かのお役に立ちたいんです」
「いや、十分頼もしく思うが、貴女の家族は同意なのか?」
「娘には、自分はもう面倒を見てくれなくて大丈夫だから、やりたいことをやりに行けと言われてしまいました。私よりずっとしっかりしています。父親に似て」
「貴女の娘は…エルシドの子か?」
「はい」
 心から嬉しそうな、花のような笑顔。シオンは得心がいった。ああ、この顔に向いていたのだ、あの男のあの穏やかな笑顔は。
「そうか。ならば…」
 と、そのとき教皇の間の外で騒ぐ声が聞こえた。
「教皇様…!」
 雑兵が慌てて扉を開けた。その横を抜けて何かが飛び込んできた。ティソナの脇に降り立ったそれは、南の冠座の聖衣。
「これは…」
「貴女が預けていった聖衣だ。南の冠座の守護星座を持つ候補生は今まで出ていない。それもそのはずだったな。貴女がいたのだから。この聖衣を再び受ける気はあるか?」
 ティソナはかつてなじんだ聖衣に手をふれた。10年前、一度だけ使ったときのように、この聖衣は迷わず自分の元にやってきた。
「謹んでお受けいたします。でも鍛錬は一応していたつもりですけれど、この年で何ができるか…。シオン様は全然お変わりになりませんね。ああ、でも私の方が年上なんですよね」ティソナは屈託なく笑った。
「聖戦も終わってそれほど荒事はない。むしろ今の聖域には若い者が多い。彼らの指導や教育をやってもらえれば…」
「え、私は読み書きはギリシャ語のほかはスペイン語と、最近やっとラテン語が何とかなるようになった程度なんですけど」
 ちょっと焦ったようにティソナは言った。
「スペイン語?」
「ええ。娘にも教えてあげるためにも」
「そうか…。最近ラテン語というのは?」
「いつか聖域に戻ったときに少しでもお役に立てばと。古い資料を読むのに必要かと思って」
「なるほど。それで十分だ。よろしく頼む。…だが荒事は少ないと言っても経験ある聖闘士はさらに少ない。時には争い事の調停などに出てもらうこともあるかと思うが」
「覚悟の上です」ティソナの顔は、もはや半端仕事を求めに来た者のそれではなく、すでに聖闘士の顔だった。「聖闘士に戻る以上、この身が寝台の上で安らかな最期を遂げられるとは思っておりません。娘もわかってくれるでしょう。守るべきものを守るために戦うこと、それが聖闘士の務めですから」
「承知した」シオンはうなずいた。

 開いたままの扉の方から人声がした。
「シオン様、ご報告に…」
 牡牛座の黄金聖衣をまとった人物が教皇の間に入ってきた。
「失礼、客人でしたか。扉が開いていたので…」
「テネオくん?」
 牡牛座の黄金聖闘士はびっくりしたように、そこにいる女性と、その横の聖衣を見つめた。
「南の冠座…! それでは貴女は…ティソナさん!?」
「貴方も立派になって。すっかり牡牛座の黄金聖闘士ね」
 今や牡牛座らしい体型になったかつての少年は首をすくめて笑った。その顔は昔のままだった。
「今は俺もアルデバランを名乗らせていただいてます。ティソナさんは聖闘士に復帰されるんですか?」
「ええ」
「それは心強いです。あれ、そう言えば仮面は」
 テネオは焦ったように目をそらした。
「あっそうだったね。聖闘士に戻るのは明日からということにしてもらえます、シオン様?」
 ティソナが言うと、シオンも笑いながら応じた。
「そういうことにしておこう」
「私の使っていた仮面、もうないでしょうね」15年前、聖衣と一緒に置いていったもの。
「どうかな。女聖闘士候補生は少ない。あとで探しに行くがいい。案外残っているかもしれんぞ」
「そうですね」
 穏やかに微笑むシオンを見て、ティソナは思った。ああ、変わっていないようでも、この方にもこの15年の年月は流れたのだと。ともに生き残った童虎とも別れ、ほとんど唯一人で聖域の復興に努めていたのだから。
「ああ今度良ければ俺のところにも顔を出してください。セリンサも喜びます」
 気を取り直してテネオが言った。
「セリンサちゃんも…?」
「ああ、ええと、今は子どもたちと一緒に聖域で働いています」テネオは頭をかいた。
「それは楽しみ」
 ティソナは微笑んだ。こうしてつながっているものがある。生きている者たちが前を向いて進んでいる限り。命でできている道を。私もその道を全うするために行こう。
 聖闘士は守るためにその力を使う。命を、大切なものを、守るために。


---


パラレルのパラレルなのに何だか長い…。特に後日譚、ながっ(後書きも長くなりました)。

「聖闘士の恋人―女聖闘士の生活(2)」でいったん没にしたネタでしたが。
人間として、女としての幸せよりも聖闘士として全うすることを選んではいたけれど、もし授かってしまったらエルシドの子を生みたい、という方を選ぶのではないか、というパラレル。彼の子を持つ機会はもう二度とはないだろうし。
避妊法があるなら堕胎法もあるだろうし、聖域にキリスト教的な「罪」の意識があるのかとかはよくわからないけれど、地上の平和を守るということが使命の聖域において、宿った「命」を慈しむ的な考え方もあるのでは、とか。

ええと、別れてるわけじゃないですよ!
「この聖戦が終わったら一緒に暮らそう」(死亡フラグ~)
それが本音だけど、その言葉が実現しないだろうことが二人ともわかっているから。聖戦時、特に黄金聖闘士は、十中八九、命を落とすだろうから。ティソナも聖闘士を続けていたらエルシドより前に。

はじめ死にネタで書いていました。ティソナをある意味、聖闘士として全うさせようと。守護星座の「冠」をはからずも活かすことができました。
ですが「ただ生きて営むことで戦う」べきかと思い、ラストを変えてみました。さらに後日譚をつけたので「ただ生きて営む」より、やはり聖闘士として全うする形に近くなったかと。でも死にネタではなく、「明日へ」続く形で終わらせてみました。
…「主編」の終わり方より、この方が良かったか?

子どもを男の子にするか女の子にするかは迷いましたが、何となくエルシドは女の子の方が喜ぶんじゃないかなあと(会ってないけど)。
よくできた娘だ…顔は父親似じゃない方が…(汗)。いや、髪と目の色と性格はってことだから!
「エスペランサ」、使ってみたかったんです。スペイン語の格好いい女性名とか他に知らないし…。

語学ネタは別に使おうと思っていましたが、ここで使ってしまいました。しかしティソナの出身地はどこなんだ?(笑) いずれにしろ多分このころ庶民はあまり読み書きはできなかったと思うので、聖域に来てから座学としてギリシャ語は習得したのだと思う。エルシドは我が家設定ではスペイン語・ラテン語・ギリシャ語くらいはできて、イタリア語とかトルコ語とか(このころ聖域のあるギリシャはオスマン・トルコ領)、もう少し東で使われているアラビア語とかまである程度わかったりしないかなあと妄想中。

テネオくん、きっと恰幅良くなってるよね。駄目?
セリンサちゃんもゴードンとクイーンが来たときの難を逃れて生きていたことに。
テネオとセリンサの一家はどこでどうして暮らしているのだろう? まあ「平時」なら黄金聖闘士もきっとずっと宮に詰めてなくてもいいよね。


アニメ第2章第4巻、観ました!
エルシド、相変わらずすごいシジフォススキーだ。テンマとの会話がかみ合ってない。「保護」しないし。シジフォスとの関係が強化されたのは手代木先生の御意向だったのですね~(手代木先生はロスシュラがお好みだったか?)
そして、やっぱり原作漫画→アニメのエルシドさんとうちのエルシドさんは別人だ~
いや、アニメ楽しいですけど! すごく格好良いし!

「週刊少年チャンピオン」で黄金聖闘士外伝も始まりました。結構じっくりやってくれそうで、こちらもすごく楽しみです!
 

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HN:
MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

何かありましたら
mcbt★br4.fiberbit.net
まで(★を@に)。
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