「十二宮で12のお題」の第2回。シオン編。
舞台はほぼジャミール。
欲張ったのでいろいろな人が出ていますが、うちのいつものオリキャラは出ません。
既存キャラの子どもが出たりするので、ご注意ください。
後書きで、LC外伝・テレビアニメ「Ω」関連の話もちょっとしています。
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ジャミールを訪れるのは久しぶりだった。聖戦が終結して十年が過ぎた。聖域もようやく復興してきたとはいえ、教皇が聖域を離れることはなかなか難しかったのだ。戻ってきた多くの聖衣の修復もあった。だがその聖衣の修復の材料を得るためとして、シオンはやっと半日ばかりの時間をひねり出した。実際必要だったこともあるが、できればジャミールに行って確かめたいことがあったのだ。
師匠の館は昔と変わらず、修復中だった聖衣やその残骸が散らばったままになっていることだろう。そして、長らく人が触れていないために、厚く埃が積もっているだろう。聖衣修復の才を持つ者はめったにいない。修復師としてジャミールの館に送りこむことのできる者にはまだ会っていなかった。
だが館の入口に立ってみて、シオンは驚いた。予想と違い、館の中はきちんと片付けられていた。修復中だった聖衣は確かにあり、それらに誰かが手をつけた形跡はなかったが、そういったものも壁際に整然と並べられていた。
「一体、誰が…」
「勝手に入っちゃ駄目ー!」
後ろから甲高い声が響いた。振り返ると、子どもが一人立っていた。精一杯虚勢を張っているが、まだ小さな子どもだ。だがその腕には見覚えのある腕輪。
「お前は…?」
「こら、何してんだ」
「父さん」
子どもの傍らに男が現れた。まだ若いがこの子の父親らしい。というか、この顔は…。
「耶人、か?」
「え? …あ、シオン様!?」
うろたえる耶人の横にもう一人が現れる。
「シオン様」
「久しぶりだな。ユズリハ」
「…それで私たちは以後、ここで暮らしているのです」
「そうか」
テネオのように、ハーデス城進軍などで傷ついたものの、聖域に戻ってきた者もわずかばかりだがいたこともある。実はロストキャンバスから生きて戻った者が、自分と童虎以外にもいるのではないかとずっと思っていたのだ。というのは、聖域の復興には近隣からも人が集まったが、その中に妙に聖域に詳しい者がいたという話を聞いたからだった。噂を聞きつけてシオンが会いに行こうとしたときには、そういう者はすでに聖域を去ったあとだった。ロストキャンバスからおめおめ生きて戻ったと恥じているのかと思っていたが、小宇宙を失った身で聖域にとどまるべきではないと思ったのかもしれぬ。聖闘士や候補生・雑兵には聖域近隣の出身者も多かった。命を失った者も少なくなかったろうが、出身地近くに戻ったのであれば、小宇宙が使えなくとも聖域に戻ることが可能な者もいたはずだ。そういう者たちの一部が、聖域の復興に影ながら手を貸してくれていたのだろう。
「だがお前たちの小宇宙はなくなったわけではないぞ」
「シオン様?」
「どんな者にも小宇宙はある。お前たちの場合は戦う力としては使えなくなったかもしれんがな。小宇宙は命の力だからな」
「そうですね…それをあの男はなかなか納得できなかったようですが」
ユズリハは少し離れたところで子どもと遊んでやっている耶人を見やった。
「しかしお前があの男を選ぶとは、少々意外だったが」
「そうですか?」ユズリハは微笑んだ。「族長の使いで冥界に行ったとき…あの男は冥闘士から私を守ってくれたのです。かなり無理をして」
「そんなことがあったのだな」
「ええ。それからも一緒に行動してきましたし、あの男のことはずっと見ていました。向こうはやや意外だったようでしたが」ユズリハは思い出すように笑った。「…以前、私は一族の血を絶やさぬために嫁ぐと申しました」
「そうだったな」
「戦士として生きると、その道は捨てたつもりでした。けれど、こうしてただ生きて営むことも私の戦いの続きだと思っています。多少遅くなりましたけど」
「では、お前は今の状態に満足しているのだな」
「ええ」晴れやかな笑顔だった。
「それは良かった」
シオンも子どもと楽しそうに遊んでやっている耶人を見ながら微笑んだ。聖闘士とは違う形でも、こうしてつながっていくものがあるのだ。
「慌しくて残念だ。今度またゆっくりと来たいものだが」
定めていた時間をかなり越してしまった。聖域に戻るとまた文句を言われそうだ。
「お忙しいのでしょう。無理はなさらずに」
「うむ。お前たちも達者でな」
「ああ、そういえばアトラも隣りの谷に住んでいます。あちらも、そろそろ子どもが生まれる頃かと。今度いらしたときにでも会いに行ってやってください」
「そうだな。また会おう」
そうして、別れたのだった。
*
葬儀が行われていた。もう何人、一族の者をこうして見送っただろうか。同じ時代に聖戦を戦った者たちが逝って久しい。ジャミールを訪れるたび、見知った顔が新しい顔と交代している。めったに来られないので当然なのだが、いつになっても一抹の寂しさを覚えずにはいられない。だが継いでゆく者たちがいるのだ。列席している者の一人の腕に、かつて見慣れていた腕輪があった。その顔に宿る俤に、シオンは静かに笑みを浮かべた。
今回の葬儀の対象者はまだ若い夫婦で、何か事故があったらしかった。幼い子どもが一人取り残されているのが見えた。子どもは、その整った顔に眉をぎゅっと寄せるようにしていたが、泣いてはいなかった。だがその少年を見たとき、シオンははっとした。その顔と、住んでいた場所からすると、アトラの子孫の一人だろう。一族の者に時折出る異能の使い手だということも聞いていたが、それとは別に感じたことがあった。
「あの子の生まれ日はいつなのだ?」
シオンは近くにいた者に聞いた。
「確か三月の…二十七日ではなかったかと」
牡羊座の生まれだった。間違いない。あの子は。シオンはゆっくりとその子の親族が集まっている方へ歩いていった。
後継者として弟子を取ったのは初めてだった。それに仲間を含め、年下の者と近しく接するのは二百数十年ぶりだった。小さな子どもにどう接すればいいのか。シオンは悩まないでもなかったが、幸いムウは手のかかる子どもではなかった。ムウに比べると私はずっと不肖の弟子だったかも知れぬな。我が師はさぞ苦労したことだろう。シオンは内心苦笑いを浮かべた。
この子に継ぐべきものを伝えるまで死ねぬな。そう思ってはいたが、ムウが技を覚えるのは早かった。修復の技も、聖闘士としての技も。まだ幼いのだからと思わないでもなかったが、自分も教皇としての務めもあり、教えられるときに教えておかねばという気持ちもあった。ハーデスが蘇るときはそう遠いことではない。まだ余裕があるとはいえ、早くに覚えて悪いことはあるまい。聖戦の時には、熟練者になっていれば聖域にとって有益だ。シオンはそう思い、修行には厳しくあたることにした。
そして、それは決して早すぎはしなかったのだった。
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他のメンバーと違って、LC(ND)のシオン様と、無印のムウ様は直接つながっているのですよね。
アリエス・ファミリー、もといジャミール・ファミリーは、LC―無印―Ωとつなげると、ハクレイ―シオン―ムウ―貴鬼―羅喜と五代も続けられるのですよ。そのうち牡羊座の黄金聖闘士と確定しているのは二人だけですが、少なくとも聖衣修復の技術は継がれているようです。
LC主要メンバーの中で、唯一書いていなかった耶人がやっと出せました。大して出てない上に、こんな形ですが。
きっと耶人はユズリハに押し切られたんだよね…(笑)。ユズリハがモーションかけてるの、全然気づいてなかったみたいだけど。
ユズリハが耶人を気にしだしたのって、多分ヒョードルから守ってくれたときだよね。自分の方が守るつもりで来たのに守られて…。耶人はそのことで意識はしてなかったようだけど。
子どものイメージは羅喜ちゃん? 性別はどちらでも。
小宇宙は聖闘士に限らず誰でもが持っている、という話の出所を探したのですが、見つけられませんでした。映画エリス編で星の子学園の子どもたちに星矢が言うところはあるんですけどね。魔鈴さんが説明しているところかと思ったのですが。無印かLCで誰かがそう言うところを、どなたかご存知でしたら是非教えてください。Ωではすべてのもの(風・土なども含む)に小宇宙があるとアリアちゃんが言うけど、あれは聖闘士に属性とかついた後の話だから、小宇宙の性質も少し違うかも。
ムウ様は何歳から修行をしていたのだろう? 7歳のときに黄金聖闘士になっているから少なくともその3年ぐらいは前? アニメスペシャル2の外伝では、シュラは複数の候補生と競って黄金聖衣を得、それから修行に行っているんですよね。ムウ様はどうなんでしょうか。
ムウ様の修行地はジャミールなんだけど、シオン様は教皇の務めの間を縫ってジャミールに赴いて修行をつけていたのだろうか。それともムウを聖域に呼んだのか。そのへんはよくわからないのですが、シオン様が一度ならずジャミールを訪れている、という設定にしてみました。この話、初めは童虎外伝と同じ頃ですが、ジャミールと比較的近い五老峰にシオン様は童虎を訪ねに行っていないので、その理由も何かでっち上げるべきだったかもしれません。LC的には、シオン様がユズリハたちの存命を知っていたかどうかが気になります。
シオン様、弟子はムウ様が初めてなのだろうか? 厳しく修行をつけるあまり、「土下座をして礼をつくさぬか」という人になっちゃったのか?
外伝その後シリーズみたいになっちゃいました。
シオン様の外伝はまだ出ていないので(そして外伝はおそらくトリでかなり先のことと思われるので)、今後どういう「事実」が出てくるかわからなくてこわいのですが、まあ矛盾が出たらそのときに考えます。
LC外伝は童虎編が終了。月刊誌では4回連載でした。ストーリーはまとめやすくて良いかも。
ペースは週刊誌の倍近いので、単行本の間隔はあきますが。
童虎編は他のものと違い、本編の「その後」でした。詳しい感想は単行本が出てから「本館」で。
次はレグルス編だそうです。どのあたりの話になるのか、また楽しみです。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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