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Posted by MCBT - 2012.06.10,Sun
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

外伝その後シリーズ第3弾。聖戦終結の数年後。
フローライトちゃんとユニティくん。デジェル関連。
オリキャラは出ません。

久しぶりの更新です。
エルシドがらみは外伝5巻が出るまでちょっと落ち着かないので…。いろいろ妄想は渦巻いてますけど。
いつもの我が家的話はそのうち出しちゃうかもですが。

「Ω」も観てるし、NDも読んでるよ! 今週(今月)は月刊でLC外伝再開!

 


拍手[2回]


---


「さて、どういたしましょうかねえ…」
 フローライトは十二宮の上に広がる空を振り仰いで、つぶやいていた。

 デジェルと別れてから数年後、フローライトは父の書きさしの小説を完成させ、父の本を出版していた業者のところに持ち込んだ。父親の残したものを若い娘が完成させたということで、多分にもの珍しさと同情で出版されたその本は、ところが思いのほか、売れたのだった。新作を乞われ、温めていたいくつかの物語を書いてみたところ、それらも好評でフローライトはちょっとした人気作家になりつつあった。
 そして小金もたまり、ある程度余裕ができたので、フローライトは出版業者に宣言した。
「取材旅行に行って参ります!」
 かねてから考えていたことだった。フローライトには、どうしても行ってみたいところがあったのだ。そもそもこれから作家としてやっていくには見聞を広めたいということもあったので、持ち前のパワーと根性で周囲の反対を押し切った。
 若い娘の一人旅が危険なのは承知していた。フローライトは町々で行商人や旅芸人の一座を見つけると、言葉を尽くして混ぜてもらい、帳簿付けや料理洗濯などの雑用をさせてもらいながら目的地をめざした。目的地はギリシャのアテネ近郊、聖域だった。

 聖域の水瓶座の黄金聖闘士デジェルには、ときどき手紙を書いていた。近況を綴ったフローライトの長い手紙に、短いものだったが几帳面な筆跡で、デジェルはいつも必ず返事をくれた。たまに返事が来るのに少し時間がかかることがあったが、そういうときは「任務で少し遠出をしていた。遅くなってすまない」というような侘びの言葉が添えられていた。
 それがあるときから、ぱたりと返事が来なくなった。今父の残した小説の続きを書いているのだと送った手紙に、完成したら読んでみたいものだ、楽しみにしている、と来たのが最後だった。デジェルの「任務」が当たり前の仕事でないのは、出会ったときのことからもわかっていた。あの誠実な人から返事が来ない、それがどういうことかも薄々わかっていた。それでも何かの混乱で手紙が届かなかっただけだと思いたかった。もし直接本を手渡しに行ったりしたら驚かれるだろうなあとふと考えていたら、是非とも行ってみたいという気持ちが募ってきた。せめてデジェルのいた場所を、この目で確かめてみたいと思ったのだった。

 そして辿り着いた聖域。やはりデジェルはすでにおらず、案内された宝瓶宮で、携えてきた本を抱えたまま、さてこれからどうしようかとフローライトは考えていた。
 そのとき、誰も来ないと思っていた宝瓶宮に、一人の男が入ってきた。その人物も、人がいたのに驚いたようだった。聖域の者の服装ではない。外套こそまとっていないが、この地には似合わぬ暖かそうな生地の服を着込んだ、銀髪のまだ若い男だ。その髪と面差しに、フローライトには思い当たる節があった。
「もしかして…失礼ですが、ブルーグラードのセラフィナ様の縁者の方ですか?」
 青年は驚いた顔をした。
「姉を…知っていたのか?」
 過去形だった。ここでも。フローライトはちょっと唇を噛みしめた。
「はい…。何年も前ですが、セラフィナ様がフランスの、当時私が勤めておりましたお屋敷にいらっしゃった折にお見かけいたしました」
「そうか」
 青年は懐かしそうな顔で少し笑った。優しそうな、だが寂しそうな笑顔だった。その顔を見てフローライトは思わず言ってしまった。
「あの…差し出たことと思いますが、セラフィナ様は弟君がそんなお顔をなさっていたら心配なさると思います!」
「え? そうかい?」
「そうですよ! セラフィナ様は他の貴族どもに服が田舎くさいとか馬鹿にされても毅然としていらっしゃいましたよ。…そりゃちょっとはむっとしてらっしゃいましたけど」
「はは、姉は勝気なところがあったからな」
 今度の笑顔は懐かしむところはあったものの、寂しそうではなかった。
「あの人も頑張っていたんだから…僕も気落ちしていたりしちゃいけないな。姉のためにも、僕を生かしてくれたデジェルとその友のためにもね。思い出させてくれてありがとう」
「いいえ。あのう、デジェル様とも親しくしていらっしゃったんですか? ええと…」
「ユニティだ。今は僕がブルーグラードの領主をやってる。至らないところも多いけどね。聖域ともいろいろやり取りがあるけど、人手が乏しくてね。デジェルとは親友だったよ。彼の修行地がブルーグラードの近くでね。よく一緒に勉強したものだ」
「わあ…! そのお話、是非お聞きしたいです! ユニティ様はこれからブルーグラードへ帰られるんですよね?」
「ああ、聖域での用事は終わったから…」
「あの、私、一度ブルーグラードへも行ってみたかったんです。ご一緒させていただいてもいいですか? それなら道中いろいろお聞きできますし」
「ええ? 僕は構わないけど、君はいいのかい? 遠いし、大変だよ。寒いし」
「大丈夫です! 私は特に予定はないですし、頑丈だけが取り柄ですので。決してご迷惑はおかけしませんから! よし、きっといいネタになるに違いないわ!! さあ、行きましょう!!!」
「あ、ああ…」
「この本、お礼に差し上げます。良かったら読んでください。私が書いた本です! あ、ブルーグラードに着くまでは私が持っていった方がいいですよね」
 これまでの道中も波乱万丈で楽しかったが、未知の国を見られることにフローライトはわくわくしてきた。噂に聞くブルーグラードの知の集積とやらを見てみたかったし、デジェルについての話も聞ける。
 やや困惑しているユニティを引っ張るようにして、勢い込むフローライトは聖域を後にした。
 前向きに。

 このときの珍道中を題材にした旅行記形式の小説が大変な好評を博すことになるのは、またのちの話である。


---


元気なフローライトちゃんを書いてみました。
デジェルさん縁の生き残りの人たちを絡ませてみようと。
ユニティくんがちょっと気の毒か? どんな道中だったのやら。
外伝4巻の巻末のこぼれ話も参照しました。

18世紀のヨーロッパでの小説の読まれ方は?
手紙って聖域に着くのか? 住所は? そもそもこの時代の郵便制度は?
…とかいろいろ思ったけど細かいことはあまり気にしない方向でお願いします。
一応18世紀のヨーロッパには小説も郵便制度もあるらしいですが、どの程度一般的だったかは、まあそこはそれ。
聖域に届けるには近くの修行地とかを連絡先として教えておいてもらい、候補生が手紙を持って行ってくれるとかね…!

ブルーグラードって、聖域のギリシャからも、フランスからもきっとすごく遠いよね…。
この時代の旅行者がどういうもんだったかも突っ込まない方向で。

 

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プロフィール
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MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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