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薬師の島に降り立ったアガシャは周囲を見回した。
さて、どこから見て回ろう。薬師の島には、父とともに何度か来たことはあったが、一人で来るのは初めてだった。聖戦が終わり聖域のあたりもようやく落ち着きを取り戻しつつあり、聖戦の際に足を痛めた父をおいてきても問題はなかろうと判断したのだった。
店のために仕入れたいのは花の種や球根が主だが、この島にしかない日持ちのする珍しい花やハーブ、父のための薬草も欲しい。余裕があれば自分の部屋に飾るきれいなちょっとした花も欲しいかも…。
「何かお探しですかあ?」
呼びかけられた声に振り向くと、人懐こい笑顔を浮かべた青年が立っていた。手一杯の薬草の束を抱えたその姿は決して身綺麗とは言えなかったが、誠実な働き者の地元の人という感じがした。自分よりやや背は低いが、年のころは同じくらいか。
「ええっと、花の市場はどちらでしたっけ? 前来たときと場所が変わってしまったみたいで…」
「ああ、それならあっちです。ご案内しましょう」
「え、でもお仕事のお邪魔では…」
「大丈夫です! すぐそこですから!!」
青年は笑った。パァッと陽の光が射すような明るい笑顔だった。
「すっかりお世話になっちゃって」
「気にしないでください! オイ…僕も丁度行こうと思ってたところだったんで。でもかえって僕の買い物まで持ってもらっちゃってすみません!」
ペフコと名乗った青年は気さくに笑いながら頭を下げた。本当に、周りが明るくなるような、思わず釣り込まれてこちらも笑ってしまうような笑みを浮かべる人だった。
「でもここは薬師の島でしょう? こんなに買うものがあるんですか?」
すでに抱えていた薬草のほかにペフコはいろいろ買い込んでいて、比較的手がすいていたアガシャが手伝って今度は彼の住まいへ運んでやるところだった。
「この島には確かにたくさん薬草がありますけど…この島には育たないものもあるんです。それに僕は研究していることがあるんで」
ペフコはちょっと真顔になってつぶやいた。
「そうなんですか…」
ペフコの住まいに着いた。
「こちらでいいですか?」
「はい、ありがとうございました! お茶でも入れますから、ちょっと一休みしててください!」
ペフコに言われて腰を下ろしていると、ふと部屋の隅に赤い薔薇の花が数輪、活けてあるのが目に入った。どちらかと言うと雑然としたその部屋とは異質な感じのするその花に思わず見入っていると、ペフコが照れ笑いを浮かべながら茶を持ってきた。
「似合わないでしょう?」
「いえ…綺麗ですね」
「ときどきこの色の花を見ると飾ってしまうんです。僕の恩人の方の思い出があって。あの人が使っていた花とはもちろん違うんですけど」
「『使っていた』?」
「ああ、すみません、聖域の近くの方ならご存知かもしれませんけど…魚座の」
「「アルバフィカ様」」
二人の声が重なった。
「ご存知だったんですか?」
ペフコは驚いたようにこちらの顔を見つめた。
「ええ…あの方は私にとっても恩人なので。とてもお強いけど、でもとてもお優しい方で」
「そうですよね! オイラもそう思います!! オイラ世界一の薬師になるって約束したんです!」
言葉を取り繕うのも忘れてペフコは夢中で叫んでいた。
「アルバフィカ様と、どんな話をしたんですか?」
「それは…」
尽きぬ思い出に、大切な人と結んだ絆に、二人は時を忘れて語りあった。
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そして暗くなってきてしまったのに気づいて、ペフコが慌てて村の宿を頼みに行ったりするんですね、きっと。
外伝単行本1巻の巻末のツーショットと手代木先生の煽り文句に乗ってみました。
誰でも思いつく程度の平凡なものですが…。
ペフコくん、案内した方なのに自分の荷物を持ってもらったりするような、そんなうっかりさんだとかわいいな。成長してても。
アガシャちゃんはしっかり者に育っているといい。
アニメで、アガシャちゃんに「バカァ!!!」と言われたミーノス様が、ぴくっと顔を引きつらせて嫌な顔をしたのは印象的でしたね。
エルシドどこいったー。まぁ、たまにはいいじゃないですか(←ニオベ風)。
外伝は次辺り渋めの人が来そうでちょっとどきどき。牛とか蟹とか山羊とか…!
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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