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フェルサーが姿を消して以来、エルシドは一層修行に力を入れるようになった。おそらくは聖闘士をあきらめたであろうフェルサーの分までもと。どこかで新しい道を見つけてくれることを祈っていた。フェルサーにはそれができると信じていた。
気がかりなのは峰のことだった。少し前までは、何かにつけよく突っかかってきたかと思えば、こちらをからかうような言動をしたりしていたのに。だが、このところ元気がなく、顔色も良くないようだった。今日も自らの仕事場に行かず、ぼんやりとこちらの修行を眺めている。
「どうした?」
修行を少し早めに切り上げ、峰の方へ行ってみた。峰が妙に小さく見えるのが気になる。そういえば、いつの間にか峰の背を追い越したようだ。だが単に自分の背が伸びたからだけではなさそうな気がした。
峰が顔を上げてこちらを見た。何か言いたそうな表情だった。…何だ?
「なんでもない」
峰はふいと背を向けて足早にその場を歩み去った。エルシドは肩をすくめた。最近、峰の考えていることはよくわからない。エルシドも修行を続けようかと向きを変えかけたとき、峰が激しく咳こむのが聞こえた。ひどく苦しそうな、嫌な感じの咳だった。
「…峰!」
エルシドは峰の方へ駆け寄ろうとした。
「近寄るな!」
峰が振り向きざま叫んだ。エルシドは足を止めた。真っ赤に染まった口と手。それが何を現しているものか、言われなくてもわかった。
「近寄るなよ…私の身の回りの物にもだ…今後、私には、一切、ふれるな!」
悲壮な覚悟をこめるように、峰は最後、はっきり区切って言い放った。そしてふらりと立ち上がると歩き出した。エルシドは呆然と立ちつくしていた。峰は背筋を伸ばし、思ったよりしっかりとした足取りで歩いて行った。姿が見えなくなった頃、エルシドはようやく我に返った。どこへ行ったのか。恐らくは自分の住んでいる小屋だろうが、何か自分にできることはないのか。断わられたからといって、あとを追うべきではなかったのか?
血に染まった顔で、近寄るなと制した。東洋にいるという、悲しい伝説の鬼のように。
フェルサーが去って、峰までも。ここで手に入れた大切なものが、砂粒のように手の中から零れ落ちてゆく。エルシドは手を握りしめた。いつになれば、守ることができるようになるのか。この手で、守るべきものを。守りたいものを、すべて。
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峰に「淡き想い」があったとしても、エルシドはきっと峰の気持ちに気づいてはいないだろうけど、親しいもの・大切なものは守りたいと思うと思います。
今の自分では守ることができないという無力さが悔しいと感じたことがあるのなら、常に自分を高めようとし続けている理由の一つになるんじゃないかなあとか。
副題はヘンリク・シェンキェヴィチの小説のタイトルにもなっている、聖書の中のペテロがイエスに言う言葉から。
意味は「どこへ行くのか」です。
LC外伝レグルス編、完結しました。
4回だと1回で敵一人、という感じで、9回だった週刊に比べて短いような気がしますが、量的には大して変わらないんですよね。話としてはまとめやすいかも。
内容としては、時代はいつだ!?とか混乱するけど、コナーちゃんがかわいいし頑張るから許す。
レグルスもかわいいけど、育ったらどんな男になったのかなあ。残念です。最後の一言「可能性」だったし。
次回からはアスミタ編! 久しぶりにイケメン回ですよ!(マニゴルド、エルシド、ごめん) 楽しみです!
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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