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フェルサーが姿を消して以来、エルシドは一層修行に力を入れるようになった。自分も修行に励まねばならないのに、最近妙に体が重く、研ぎかけた刀に取りかかる気がなかなか起きなかった。
今日もぼんやりとエルシドの修行を眺めていた。
「どうした?」
休憩する時間になったのか、エルシドが近寄ってきた。微かに心配そうに眉根を寄せた目がこちらに向けられる。いつの間にか、目線がごくわずかだが上になっている。この間まで私の方が高かったのに。
峰はエルシドの顔を見上げた。この顔を見ていると、胸の奥がうずくような気持ちになるようになったのはいつからだろう? 気にかけてくれるのは嬉しいが、おそらくそれは十中八九体調を気遣ってのことだろうと思うと、思わずきつい言葉が口をついて出そうになる。この鈍感男め。私が…。突然距離を詰めてみたら、この男はどんな顔をするのだろうか。
「なんでもない」
峰はくるっと向きを変えると足早にその場を歩み去った。突然、最近よくある、激しい咳の発作が襲った。喉の奥から湧き上がる不快感に口を押さえた手を見ると、血が見えた。
密かに危惧していたことだった。やはりか…!
私は何か、刃を汚すようなことをしただろうか。『聖剣』への道も、あの男への思いも、これで、もう…。絶望感が峰の身を苛んだ。
「…峰!」
後ろからエルシドの声がした。追ってきたのか?
「近寄るな!」
峰は振り向きざま叫んだ。駆け寄ろうとしていたエルシドが足を止めた。顔がこわばる。口と手についた血を見たのだろう。こうした症状が何を現しているものか、知らぬはずはない。
「近寄るなよ…私の身の回りの物にもだ…今後、私には、一切、ふれるな!」
文字通り、血を吐くような叫びとはこのことだな…。峰はふらりと立ち上がると、エルシドに背を向け、自分の小屋の方へ歩き出した。頬を涙が伝うのがわかったが、拭う気力もなかった。エルシドはついて来なかった。今どんな表情をしているんだろう…。知りたかった。だがそのためには振り向いて、自分の顔も見せねばならない。見せたくはなかった。こんな涙にくれた顔を。あの男には、いつも凛とした顔を見せていたかったから。峰は背筋を伸ばし、ややもするとふらつきそうになる足を引きしめ、しっかりとして見える足取りで歩いて行った。せめて、この身があの男の視界にある間は。
散りゆく桜の花びらが頬をかすめた。ああ、花は変わらず美しい。私が逝ったあとも、あの男を見守っていてくれ。
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山羊座月間に何もないと淋しいので。
せっかく去年いい話で締めたのに、今年の初めにこんなんですが。
某原稿からの派生の一つ。
「見果てぬ夢」につながるものとしても可。
副題は聖書にある、復活後のイエスがマグダラのマリヤに言う言葉から。
意味は「わたしにさわってはいけない」です。
「Ω」ですが、ソニア様が気の毒でたまりません。
いろいろ書いていたら半端なく長くなったので、それは別のところで語ることにしましたが、登場した頃にはこんな切ないキャラになるとはまさか夢にも思いませんでしたよ。
エデンにはアリアがいたけど、ソニアに心をかけてくれたのは…自分がその父を殺してしまった男。
蒼摩はもうソニアを憎んでいないのに、ソニアには受け入れられない。
最後は事実上自爆。蒼摩の声の出せない、涙も出ない嘆きが悲しい。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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