外伝その後シリーズ第6弾。聖戦後、外伝より前、とずっと後。
流星(リウシン)、飛眼(フェイガン)=白澤、牡丹(ムーダン)。童虎関連。
オリキャラは出ません。
「獅子の眼差し」への拍手、ありがとうございました!
レグルス好きの方でしょうか? 気に入っていただけたのでしたら幸いです。何故か書くのにすごく苦戦した話だったので…。コナーちゃん話も単行本出たら出す予定なのでよろしければまたいらしてください。
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手に入れた。白龍の力を。飛眼は拳を握りしめた。
「貴方はそこで黙って見ているがいい。私が世界を矯正するのを」
糸のような細い雨が降る中、飛眼は石と化した白龍が巻きつく柱に背を向ける。その場にたゆたっている靄の中から、一筋の光が飛んで行ったのは飛眼が歩み去ってからのことだった。
俺は…誰だ?
俺の名前は…流星だ。ここはどこだ。ここは…。
ああそうだ、ここは白龍様が護る地の要、仙境だ。俺はここに…。
ここに修行に来たんじゃないのか。何をぼんやりしてるんだ。
流星は立ち上がって頭を振ると歩き出した。考えると、その答えが頭の中に浮かんできた。それが『思い出した』のではなく、今まさに次々に形作られていることを、流星は知らなかった。
「あんたはやっぱり強ェな!」
「今日からあんたが隊長だ」
修行仲間との乱取り形式の試合に勝利し、流星は隊を束ねる一番隊長に推された。
「ああ、よろしく頼むぜ」
流星は明るく笑って言った。彼は腕は立つが人懐こい性格だった。そして白龍への絶対の信頼を現す態度。流星の部隊は、そうした彼の周りに集まった、彼と気持ちを同じくする者たちで成り立っていた。流星はよく響く大きな明るい声をしていて、多くの者に好かれていたが、彼の素顔を知る者はいなかった。いつも狐面のような仮面をつけていたからだった。それは彼が現れたときからのもので、いつの間にか自然に受け入れられていて、疑問に思う者はいなかった。傍から見ている者がいれば、ずいぶんとおかしなことだったのだが。
あいつはいつからここにいるのだったか…? 白澤はふと思った。自分の目は全てを視ているはずなのだが…。まあ、良い。あんな者の一人や二人、何とでもなる。そう言えば聖域の聖闘士になった童虎が帰ってきたと聞いた。冥王を退けた聖域は、いずれ私が世を矯正するのに邪魔な存在となるに違いない。童虎は私が統べる世にとっては『凶星』だ。流星など、これ以上白龍への支持ぶりが目障りになれば、凶星の討伐として出してしまえばよい。部隊ごと片付けられてしまえばそれもよし、残るようなら破門して誰かに始末させればいい。そして童虎が生き残ってやってきたとしたら、ここですりつぶせば良いだけのこと。白澤の思いはいつの間にか流星から逸れていった。自分のその心の動きを、白澤はおかしいとは気づかなかった。
この身を解放するにはかの虎の力が必要だ。そしてあの男を我が力から解放してやるのにも。白龍の布石は、それぞれの者の中の無意識に作用していった。
流星の仮面が割れた。その下から、かの虎の心を揺り動かすのにあいふさわしい顔が現れる。
そのようにして、物事は正される。今を生きている者の手によって。
我に返ると、目の前に妹の心配そうな顔があった。
「牡丹…か」
「兄さん…」
名を呼ぶと少しほっとしたようだった。
「ここは…?」
飛眼は身を起こした。何があった? いつの間に…。
「五老峰、というところみたいよ」
「なに…?」
では、ここは童虎の…。飛眼の胸の中に様々な思いが去来した。我々は仙境からはじき出されたか。童虎は何と言っていたのだったか。白龍様は。誰かもう一人いたような気もするが…。
飛眼はしばらく目をつぶり、ややあって開いた。仙境を出たのは久しぶりだった。妙に違和感がある。いや、むしろ仙境であった出来事がまるで夢の中のことのように感じられる。あそこで過ごした十数年の歳月が。現世と幽玄の狭間での、一瞬の夢のように。これからどうすればいい?
だが座り込んでいても始まらぬ。とりあえず五体満足な体がある。まずは動いてみるか。何をすべきか決めるのはそれからでも遅くはない。
「行くか、牡丹」
「うん…! あたしは兄さんについていくから。ずっと、変わらずに」
二人が立ち上がると、足元に狐が一匹寄ってきた。雀も一羽二羽と飛んできて、二人の肩に止まる。行くべきところはまだよく視えてはいないが、歩き出す。生きていくための、新たな道へ。
*
俺は…誰だ? ああそうか。思い出した。おや、あれは…あの魂は…。彼はその魂の方へ飛んでいった。
『ご苦労だったな、童虎』
『ん? おぬしは…テン…いや…流星か?』
『あんたが俺のこと呼び間違える癖は直ってねェな』
『…スマン』
『まあ、いいさ。しっかしあんたもすっかり貫禄ついてたじゃないか。さっきは元に戻ってたみたいだったけどな』
『まあ、の。長い留守番じゃったが…やっとお役御免になったというところかの。天馬星座にもイキのいいのが還ってきたし、あとは彼らに託すのみよ』
『そうか…』
『そう言えばおぬしは、なぜここにおる? 白龍様は…?』
『あんたの気配を感じたんで、ちょっと迎えに来てやったのさ。ま、こんなのもいいだろ?』
『…ああ、そうじゃの。悪くはない』
古い星は流れ、新しい希望の星が昇っていく。ともに天を翔る龍のごとく。
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依林(イーリン)と流星(リウシン)の絡み、やりたかったなー。
一般人枠、依林かと思っていたんだけど。
あの狐は灰(フウイ)の魂みたいなものなのか?
流星くんが気に入ったので書こうと思ったのですが、「あれは彼らだった」って、合点がいきません、童虎さん!
彼の存在について自分なりに解釈してみましたが、うーむ。
このシリーズは黄金さんたち本人たちは出さないのが基本ですが(聖戦後だとだいたい死んでるし^^;)、童虎さんは生き残り組なので例外でもいいかなと。
流星くんも生き残ったと言えるのか微妙なんですがね。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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