黄金交流話、レグルス編。
無印とは違い、辛くない山羊&獅子話。
原作開始時より4年程前、レグルスが聖域に来て1年あまり。
オリキャラは出ません。
「カノン島の客」への拍手、ありがとうございます!
毎日確認してるのに、どうして肝心なときに見損なうかな、自分…
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「レグルス」
「あれ、シジフォスは?」
獅子宮に現れた山羊座の黄金聖闘士エルシドの姿に、獅子座の候補生の少年、レグルスはちょっと驚いたように問いかけた。
「教皇のセージ様のところで抜けられない用が入ったらしい。すまんが今日は俺が相手だ」
「すまなくなんかないよ。俺、エルシドとの修行好きだもん」
レグルスはにっこり笑って答える。その笑顔にエルシドもわずかに微笑む。
「…そうか。なら今日はあまり手加減しないでおいてやろう」
「えー、今まであれで手加減してたのか?」
「当然だ」
軽口を返しつつ、エルシドは思う。遠からず、この少年には本当に手加減は必要なくなるだろうと。
「お前もできれば、ときどきレグルスの修行につきあってやってくれないか」
射手座の黄金聖闘士シジフォスが、レグルスを連れて来たのは一年あまり前。シジフォスが師匠についたが、同時にレグルスは同年代の少年の候補生のグループにも参加した。だがそれまで修行らしい修行をしていなかったにもかかわらず、レグルスはあっという間に彼らを追い越してしまった。それからは普段レグルスの相手をするのは青銅や白銀の聖闘士たちになり、やがて黄金聖闘士の最年長者で多忙な師匠のシジフォスが来られないときは、ときおり他の黄金聖闘士たちがレグルスの修行を受け持つようになったのだ。エルシドもシジフォスに頼まれたこともあり、よくレグルスと過ごし、できるだけその修行につきあった。人付き合いのあまり得意でないエルシドも、素直なレグルスの相手は楽しかった。聖域に来てからのレグルスはその明るい飾らない人柄で、ずば抜けた小宇宙と成長具合にもかかわらず、誰もが許してしまうような、誰もが好感を持たないではいられないような、屈託のない笑顔の似合う少年だった。レグルスは同年代の少年たちにもすぐなじんで今でもときどき元気にじゃれあっていたし、人一倍レグルスをかわいがっているハスガードにはよくなついていた。だが無口なエルシドといるときは、ときおり別の顔も見せた。
「エルシドは父さんに会ったことある?」
レグルスの父とは当代最強と言われていた亡くなった獅子座の黄金聖闘士、イリアスのことだ。
「いや。俺が聖域に来たとき、イリアス殿はもうここにいなかったからな」
「そっか…」
そんなときのレグルスはいつもの明るい少年とは違い、何かを追い求めているような静かな暗い目をしていた。ハスガードがイリアスとレグルスの親子を見失ってからシジフォスが見つけ出すまで、五年の月日が流れていた。その間何があったか、少年が如何に生きてきたのかは誰も知らない。楽な生活でなかったのは確かだ。ほとんど無力な幼児に均しい身で、獅子座の黄金聖衣を一人守って。レグルスはそのときのことは語らない。エルシドもまた聞かなかった。いつも無理して明るくしているわけではないだろうが、自分といることがまた違ったある意味気分転換になるのならそれもいいかと思った。
「エルシド、あんたの技も見せてよ」
「俺の?」
「そう。あと黄金で見せてもらってないのはだれだったかなァ。結構難しそうな技もあったけど」
レグルスは『見て』、その技を覚えるという。黄金聖闘士は非常に特化した技を持つ。精神攻撃的な技も多い。その点、自分の技は覚えやすかろう。
「わかった。ちょっと場所を変えるぞ」
黄金聖闘士とその候補生の修行は注目の的だ。本気の技を繰り出すには修練場では人が多すぎる。エルシドはレグルスを伴って聖域の外れの人気のない場所まで移動した。
「この辺ならいいだろう」
エルシドは小宇宙を高め、右腕を振るう。金色の光が走ってわずかに斜めに目の前の地面と崖が裂ける。
「あいつがいたから軌跡を曲げたの?」
割れた崖のあたりからウサギが一匹走り出てきたのを、レグルスは抱き上げて頬ずりする。
「目がいいな」
「それが俺の取り柄だからね」
レグルスは手を離してウサギを逃がす。
「それにしてもすごいな!」目を輝かせてレグルスは裂けた崖を見上げた。「その技、何ていう名前?」
「名前か…」エルシドはちょっと言葉を切った。「ある男は『聖剣』と呼んだがな」
「ある男って?」
「シジフォスだ」
「で、あんたは呼ばないんだ?」
「まだそう呼べるほど極めたとは思わないからな」
「ふうーん」
「まだ見るか?」
「うん!」
熱心にレグルスはうなずく。背が同じくらいになる頃には、この少年はきっと俺の技を凌駕しているだろう。頼もしいことだ。まだ小柄な少年を見やりつつエルシドは思った。
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「当然だ」と言いながらエルシドがにやっと笑って、そんな顔がすごく珍しいのをレグルスは知らない、っていうのを入れようと思ったけどうまく入らなかった。
シュラとアイオリアには一方ならぬ因縁があるわけですが、エルシドとレグルスには「暗い過去」はないんですよね。射手座が純粋に尊敬する先輩と師匠(+身内)というだけで。辛くない山羊&獅子を書いてみたかったのですが、なぜか思いのほか書くのに難航しました。無口な山羊になついている獅子、素直な獅子をかわいがる山羊、というのがうまく書けているかどうか…。
当初何の影もなさそうだったレグルスですが、目前での「父の死」っていう大きな影をしょっていたのですね。
レグルスは普通の人たちの前では明るくしてるけど、寡黙な人の前では自分も静かに内心の決意を燃やしたりしているのではないかと。
お母さんはどんな人だったのかが気になる。
エルシドが自分で「聖剣(エクスカリバー)」って言わないわけ、っていうのもちょっと考えてみました。
レグルスは15歳でもうかなり強くなっていたけど、まだ他の黄金さんたちより小柄だったよね。彼がアイオリアと同じくらいの年や背丈になることはなかったのですね…
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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