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思いもかけず数日を磨羯宮で過ごすことになってしまった。自分は教皇の間で倒れ、エルシドがここまで運んでくれたという。考えるだけで恥ずかしかったが、エルシドがいない間はここを使うようにと教皇から話が通っているのであろう、訪れる治療師や食事を持ってきてくれる女官たちは別段特別な素振りは見せなかった。
「かなり傷もひどかったのですから、ちゃんと直るまで動いては駄目ですよ」
時折訪れる女神に釘をさされていた。思いのほか出血が多かったのかしばらく貧血気味で寒気がして、実際問題として、起き上がろうとすると立ちくらみがした。それも昨日あたりからほとんどなくなり、ようやく普通に動けるようになった。今朝は朝の鍛錬もできるようになり、治療師もお役御免にした。まだ体に違和感はあるものの、この程度なら問題ない。改めて、自分に注がれた女神と、エルシドの小宇宙に感謝の念を捧げる。
慣れた場所だったが、主がいない磨羯宮はちょっぴり寂しかった。引き上げる前に、部屋を使わせてもらったお礼にせめてきれいにしておこうと思ったが、もともと無駄なもののないエルシドの宮は特に掃除する必要などなかった。宮で過ごすことも少なくないはずだが、そう言えば私物というものがほとんどない。いつもは周りに目をやる余裕もあまりないので気づかなかったが…。
「ティソナ」
ぼんやりしていて、宮の主が帰ってきたのに気づくのが遅れた。
「エルシド様…! あ、お帰りなさい」
「もう、いいのか」
「はい、もう大丈夫です。今、出ようと…」
「すぐ戻る」
エルシドは短く言うと、報告に教皇の間の方へ上って行った。ティソナは出る機を逸してしまった。ほどなくしてエルシドが戻ってきた。
「体はもういいのか」
改めてエルシドは聞いた。
「はい。あのときはありがとうございました。宮も使わせていただいて…」
ティソナも今一度礼を述べる。
頭を上げたティソナを、エルシドは無言で引き寄せて抱きしめた。
「エルシド様…」
エルシドの聖衣からは微かに血の臭いがした。怪我をしている様子はないから恐らくは相手のものだろう。聖闘士の、ましてや黄金聖闘士の任務が穏やかなものであることはほとんどない。聖戦が始まった昨今では、それはさらに苛烈なものとなりつつある。聖闘士である以上、怪我は日常茶飯事、むしろ命を永らえることのできる聖闘士はほとんどいない。お互いに、危ないことをするな、死ぬな、などとは言わない。心配はしてもそれも口には出さない。聖闘士の務めとは、そうしたものだから。いつ訪れてもおかしくない終局のとき。
それでも、その日までは全力で。
そして、今のこのときを大切にしたい。
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このところ男どもの話ばかり書いていたので、女の子書きたい!と思って書いたら前段のような話で、あまり二人の絡みがなかった。
後日談でリベンジ!と思ったのに、らぶらぶのつもりだったのに、あれ? 「聖闘士の覚悟」みたいな話に…。
…磨羯宮はこんなことに使っていいのだろうか。
エルシドはきっと私物はあまり持ってないよね…我が家設定ではほとんど身一つで聖域に来ていることになってます。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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