女神と教皇と黄金ほぼオールスター。
オリキャラは出ません。
学パラと同じく、ふとした会話から生まれたギャグです。
ろん様との合作作品。
もしギャグがふえるようなら別カテゴリー作りますが…。
今日は大阪オンリーの日ですねーご盛会をお祈りしております!
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「女神、何か不自由なことはありませぬか?」
一通りの行事ごとを終え、神殿から戻ってきたサーシャへ教皇が問うた。
今代の女神は、普通の少女として生まれ、九つの日までを育っている。聖域に来てから数ヶ月あまり、未だ戸惑うことも多いだろうと思っての言葉だった。
「だいじょうぶ。ここの人たちはみんな優しいし、覚えることは多いけれど、私は女神ですもの」
「女神様……俺たちには、何でも仰ってくれてよろしいのですよ」
薄く微笑んだ少女に、射手座の黄金聖闘士の声が届いた。折好く教皇の間に来ていた彼は、どこか困ったような笑みを浮かべてサーシャを見つめている。
思うところが無いわけでもないのか、サーシャは中空に視線を彷徨わせて、すこし口ごもった。それから呟くようにこぼれた言葉を、シジフォスは寸分違わず受け取っていた。
*
「──温かいご夕食だ!」
三巨頭と対峙してさえこうはなるまいというほどの真剣極まりない表情で、シジフォスは言い放った。集められた黄金聖闘士は、ある者は何事かと仰天し、ある者は顔を見合わせ、ある者はさしたる興味も無さげに最年長者の言葉を聞いた。
「女神様が温かな食事をご所望なのだ! 女神様のいらっしゃる教皇の間への道とはすなわち十二宮! 女神様の望みを叶えて差し上げるため、我らが動かず何とする!」
「おお、温かい食事か。それは良いのう」
天秤座の童虎が楽しそうに言った。
「えーと、私も参加するのだろうか?」
皆から少し離れたところに立っていた魚座のアルバフィカが、やや困惑したように質問してきた。
「あー…、そうだな、お前はいい。かわりに途中でさぼっている奴がいたら小宇宙で渇を入れてやってくれ」
「…わかった」
と、いうことで「女神様へ温かい食事をお届けする」一大ミッション?が始まった。
*
「あのう…」
夕刻、女神様への食事の盆を持った女官が、白羊宮の入り口でおずおずと声をかけた。
奥から牡羊座の黄金聖闘士、シオンが出てきた。
「あの、これをお渡しするように言われているんですが…」
「ああ、ご苦労様」
シオンはその物柔らかな顔にちょっと苦笑を浮かべると、女官から盆を受け取るやいなや、目にも留まらぬスピードで上の宮に向かっていった。
「やっぱり本当だったのね…」
あとには呆然とした表情の女官が残されていた。
「ハスガード、では次を」
「おおシオン、始まったのだな」
牡牛座のハスガードは笑いながら出てきて盆を受け取った。
「シジフォスもおかしなことを思いついたものだな」
「今はいいが、これをずっと続けるのだろうか?」
「まあ、なるようになるだろう」
ハスガードはなおも笑いながら金牛宮を出て行った。
「ほれ、アスプロス。次を頼むぞ」
にこやかな表情のハスガードに盆を渡された双子座のアスプロスは、一瞬考え込んだ。いっそこのままアナザーディメンションで上まで送ってしまおうか…。いや、それでは中味がぐしゃぐしゃになってしまうにちがいない。こんなことであとでシジフォスにぐだぐだ文句を言われるのは御免だ。面倒だが仕方あるまい。アスプロスはため息をつきながら腰を上げた。
「……そういや、お師匠の分はねぇんだな」
アスプロスから渡された、明らかに一人分の食事しかない盆を見て、蟹座のマニゴルドは一人ごちた。普段のこの時間帯、十二宮を往来する女官は大抵二人。片方は女神の、片方は教皇の夕餉を持っているのが普通だが──。
「シジフォスが言い出したんじゃ、仕方無ェか」
獅子宮の黄金聖闘士はまだいない。ただでさえ二宮駆けねばならない貧乏クジを引いているのだ、荷物が増えることなど誰が考えるものか。
盆をきちんと水平に持ち、マニゴルドは駆け出した。
「アスミタ、てめェの番だぞ!」
獅子宮を過ぎ、曲がりくねった階段を駆け上がり、飛び込むようにして処女宮に辿り着いたマニゴルドは、辺りを見回して舌打ちした。
順番を待つ主の姿はおろか、小宇宙すらほとんど感じられない。今通ってきた獅子宮とさほどの違いも無いではないか。
「──アー、スー、ミー、ターッ!」
たっぷり三秒、そして十秒。がらんとした宮にはマニゴルドの声が響くばかりで、応答は無い。そうこうしている内に手の中の盆は温かみを失っていくよう、山並みの間から微笑む太陽はますます傾いていくようだ。
沈黙を追い払うように片足を踏み鳴らしていたマニゴルドは、やがてキッと顔を上げた。
「……ああもう、俺っていい奴!」
マニゴルドが上へと出ていった処女宮の奥には、宮主である乙女座の聖闘士がうっすらと笑みを浮かべながら座っていた。
「おらよ、さっさと受け取れ」
天蠍宮にいた蠍座のカルディアが顔を上げると、そこには仏頂面のマニゴルドが盆を突き出して立っていた。
「あれ? なんであんたがここまで?」
「俺の隣はまだ空だろ、処女宮のあいつは呼んでもさっぱり出て来やがらねえ。起きてんだか寝てんだか知らねえが、面倒だから飛ばしてきたら、童虎は今日は任務で出かけてたんだよ」
マニゴルドはうんざりしたように言った。
「ああ、そう言えば急な任務が入ったとか…」
「勘弁してくれよ」
ひとしきりマニゴルドがぼやいた後、食事の盆はカルディアに引き継がれた。
「遅い!」
カルディアが慣れぬ手つきで盆を持って上がっていくと、シジフォスが人馬宮で仁王立ちで待ち構えていた。肩をすくめたカルディアが盆を渡すとシジフォスは器をさわってまだ温かいのを確かめると、物凄い勢いで階段を上がっていった。細心の注意を払って盆を抱えながら。
「やれやれ、よくやるよ」
カルディアは首を振りながら自宮に戻っていった。
「そろそろか?」
山羊座のエルシドがすわっていた椅子から腰を上げかけたとき、
『俺が上まで行くから、お前たちはいいぞ』
シジフォスの小宇宙通信が聞こえたと思うと、誰かがあっという間に磨羯宮を通り抜けていった。エルシドが宮の外に出て見上げてみると、同じように自宮の入り口に立ちつくしている水瓶座のデジェルの姿が見えた。
『…私たちはお役御免でいいのだろうか?』
『どうやらそのようだな…』
エルシドとデジェルはそんな小宇宙通信を交わすと、それぞれしばらく上方を見上げていた。
「女神様、お食事をお持ちしました!」
いつもは女官から聞く言葉が、耳慣れた、しかしこうした台詞には似つかわしくない男の声で聞こえたので、サーシャは仰天して椅子から立ち上がりかけた。
「シジフォス……? どうしてあなたが、」
サーシャが言い切る前に、十二宮を渡った盆が目の前に置かれる。まだ湯気の立つ食事にはっとしていると、シジフォスは額から一筋落ちた汗を拭って会心の笑みを浮かべた。
「まさか……」
「どうにか温かなご夕食をと思って、皆で運んだのです。さあ、冷めない内にどうぞ」
中途半端に立ち上がっていた体から力が抜けて、すとんと椅子に収まる。促されるまま肉を一切れ口に運ぶと、口中に、やがて全身にその温かさが伝わっていった。
今よりずっと味も量も乏しかったが、孤児院の食事はいつもこのように温かかった。そう思ったとたん、さして遠くない過去のことが次々と脳裏に閃いては消え、サーシャの手は知らない内に細かく震えだしていた。
「女神様?」
「……ありがとう。とても、嬉しいです」
言って、サーシャは微笑んだ。まるで泣き笑いのような顔だったが、それはよく見せる気丈な、しかし寂しげな笑顔よりもずっと愛らしかった。
*
「まったく……シジフォスも無茶を言いおる」
──女神の小さな望み、確かにわからぬでもないが。
教皇セージは人心地付いた十二宮へ思いを馳せ、ふと呟いた。遠い昔、兄や仲間たちと熱いパンを千切り、火にかけたスープに手を出して舌を焼いた思い出は今でも鮮やかに蘇る。親しい者を大勢失い、教皇となってからは、丁寧に運ばれてきた冷えた料理に寂しさと喪失感を自覚させられたこともあった。
しかし、と教皇は口角を吊り上げる。
「このやり方は、いかんな」
道中、愛弟子がずいぶんと苦労させられてしまったようだ。女神に喜んでいただいたのは我々にとっても喜ばしい、シジフォスはますますやる気を出してしまうだろうが──これはいささか公平さに欠ける。運ぶというなら一日一人、いやいっそのこと……。
様々に思い巡らしながら、セージはひと時の平穏に身を委ねた。
その後、教皇の間に厨房を作る計画が発表され、黄金聖闘士全員参加ミッションは一回限りに終わった。
女神とともに、教皇もちゃっかり温かい食事がとれるようになったという。
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シジフォスがおかしい人に。セージ様も変か(弟子贔屓)?
マニゴルド、受難の巻。…いい奴…。
対してアスミタがひどい奴。アルバフィカに渇は食らわなかったのだろーか。
エルシドとデジェルの真面目二人組はうまいことお役御免に。
うちの聖域、十二宮の各宮には厨房がある設定だったのですが、教皇の間にはなかったのか(笑)。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
何かありましたら
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