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Posted by MCBT - 2013.11.03,Sun
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

一人エルシド祭り、後半戦。
外伝から発想の、峰がもし死ななかったら?のif捏造「夢」話。
男女CPもの、エルシド×峰、になります。

というわけで、原作本編にも外伝そのものにもつながらないパラレルです。
当サイトのオリキャラの存在も全くありませんw
 


拍手[1回]


---


「そう言えば、ここは…」
 最後の相手を斬り伏せ、ふと今いる場所を改めて自覚した。ここから山一つ越えたところ、そこは。

「エルシド…?」
 峰は突然現れた姿に目を瞠った。エルシドが聖闘士になってここ修行地を出て行って数年になる。その間一度も会わなかったわけではないが、エルシドの聖衣を纏った姿は初めて見た。夕暮れ時の光の中でも、眩しく煌めくその姿。
「久しぶりだな、峰。たまたま任務の地がすぐそこだったんでな」
「そうか…」
 何とはなく目をそらしたとき、マントの肩口の染みに目が止まった。
「怪我をしたのか!?」
「うん? 返り血だろう」
 エルシドは大して気にとめていないようだったが、聖衣に覆われていない二の腕のあたりに明らかに傷が見えた。
「やっぱり怪我じゃないか」
「そうだったかな。もうふさがっている。問題ない」
「…聖域にむさ苦しい姿で帰るな。洗ってやる」
 峰はエルシドのマントをはぎ取った。
「ああついそのまま来てしまったが…このなりで帰るつもりはない」
 エルシドの体からふわりと煌めく聖衣が離れ、傍らの聖衣箱に収まった。エルシドはかつて訓練用の防具の下に着ていたような普通の服に戻る。別に上着も持っているようだった。
「急いで帰らなければならないのか?」
「いや」
「じゃあ、少し休んでいけ。洗って渇かすまでは時間もかかる。茶ぐらいいれてやる」
 エルシドは思いのほか素直にうなずくと、促されるまま峰の小屋に入った。

 小屋に入ると、エルシドは物珍しそうに部屋の中を見回した。
「どうした?」
「いや、ここに入るのは初めてだと思ってな」
「…そうだったか?」
「ああ」
 部屋の隅に鎌や鋤が置かれている。近隣の農民たちのために鍛冶仕事もやっているようだった。峰はこの地にとどまり、時折やってくる聖域からの使いに渡す、雑兵たちのための武器を鍛えるようになっていた。だが聖域からの注文だけでは心もとないのかもしれない。近くで戦乱でもあれば武器の需要もあるかもしれないが、あまりそばでそのようなことがあるのも好ましくはない。そして農器具の間に混じる幾本かの研ぎかけの刀。
「お前もまだ途上のようだな」
「ああ。お前はそろそろ『聖剣』を会得したのではないのか?」
「いや。まだまだだ」
 峰の言葉にエルシドは首を振る。あくなき探究心は互いにあるもの。
 それぞれの『聖剣』のことになると、以前のようについ熱心に語り合っていた。話が一瞬途切れたときに同時にそのことに気づいて、顔を見合わせて小さく笑いあった。
 一息入れようと、エルシドは峰のいれてくれた茶をすすった。
「すまん、すっかり冷めてしまったな」
「いや。これは…?」
「東洋の茶だ。先日ハクレイ殿が持ってきて下さったのだ」
「貴重なものではないのか?」
「いつまでも置いておくものでもないだろう。まあ実は私もいれ方がよくわかっていないんだ。父がいれてくれた覚えはないからな。ただ甘味などは入れないものらしい」
 エルシドはもう一度よく味わいながら飲んでみた。東洋の淡い緑色の茶は、微かな苦みと風変わりな香りがした。
「…お前のようだな」
「何がだ」
「いや」
 エルシドが茶を飲みながら浮かべた微かな笑みに、峰は目が離せなかった。こいつはこんな風に笑うこともできるのか。顔も、体つきも、しばらく見ないでいるうちに、かつて見慣れていた少年のそれではなくなっていた。聖闘士になったということは、何度か死地をくぐり抜けても来たのだろう。もともと無口な男だったが、エルシドは任務の話はあまり詳しくは語らなかった。語れないこともあるのだろう。こちらにもそれほど珍しい話があるわけではない。話の接ぎ穂がなくなると、ぽつぽつと互いの近況を語り合うだけになった。

 気がつくと外では篠突く雨の音がしていた。いつごろから降り出したのか。ずいぶんと暗くもなっていた。
「しまった、降ってきたか。今日くらいはもつと思っていたが」
 峰は立っていって戸口のところから外をのぞいた。
「すぐにはやみそうにないな」
 峰の傍らにエルシドが来て言った。エルシドの背の高さを意識する。ここに来たばかりの頃は同じくらいの背丈だったのに。むしろちょっとだけなら私の方が高かった時期もあったのに。
 エルシドは立ち去りがたい様子に見えた。ならば。
「…なら泊まっていけばいい」
 前を向いたまま言った。
「峰?」
 エルシドが驚いたようにこちらを見た。
 峰はエルシドの方に向き直った。その顔を見上げる格好になる。ああもう! 本当にいつの間にこんなにでかくなったんだ。爪先だってエルシドの頭を引き寄せ、その唇に口づける。
「お前…」
 エルシドはその細い目をわずかに見開いた。もう、その行為の意味がわからないような子どもではない。そしてここにはすでに師匠も兄弟子もいない。
「嫌なら私は納屋で寝る」
 峰は立ち尽くしているエルシドを押しのけて、雨の中を出て行こうとした。その峰の腕を、つかんでエルシドが引き止めた。
「嫌だなどとは言っていない。お前…いいのか?」
「女の方から何度も言わせるな」
 怒ったように言って顔をそむける。
「すまん」
 エルシドの手が伸びて、その顔をそっと正面に向ける。
 返された、長い、思いがけないほど情熱的な口づけ。それ以上の返事は、いらなかった。

 峰の髪をまとめていた布がはずれ、髪が寝具の上に広がる。癖のない、ストレートな長い髪。エルシドは手でそっとその髪をすくいあげる。その手の表面には、ふだんは見えない無数の白くなった傷跡が、光の加減で浮かび上がって見える。『聖剣』をめざすその手。
「お前の髪は手触りがいいな」
 その手で、さらりと髪を流す。
「私はこの髪も嫌いじゃないが?」
 峰もエルシドの髪を梳いた。後ろ髪が割と長いのが意外といえば意外だが、硬いしっかりしたところが本人に似ている。
「同じ黒髪でも全然違う…」
 峰はエルシドの耳元でつぶやいた。ともに『聖剣』をめざしていても、それぞれの道が違うように。
 エルシドが峰の髪に口づける。峰は、これもいつの間にか広くなったエルシドの背に腕を回した。

「聖域に来るつもりはないか?」
 聖衣箱を背負ったエルシドはこちらを振り返って言った。
「いや。ここでの知り合いや伝手もできたし、聖域からの使いはいつもきちんと来るしな。それに何よりここは水がいいんだ」
 刀の研ぎにかける峰の言葉に、エルシドは黙ってうなずいた。
「だから私はここにいる。お前は聖域に帰ってもしょっちゅう任務であけるんだろう? …私はいつもここにいるから」
「わかった」
 それ以上、エルシドは言わなかった。聖闘士の任務は常に危険をはらんでいる。いつまた来られるかはわからない。
「お前も『聖剣』への道を励めよ」
 エルシドは穏やかな笑みを浮かべて言う。峰も笑んで返す。
「お前もな」
 進む道は異なるけれど、ともに『聖剣』をめざす者。その一点で私たちは通じ合っている。どこにいても、それは変わらないから。


---


お初の場面の話なのに別れ話みたいだけど、そういうわけじゃないですよ!
いろいろぬるい上に、なんだか恋愛ものっぽく甘々にならないんですけど。
峰さんは口調も男前で、台詞だけ見るとどっちがしゃべっているかわからないよう…。
ま、私の腕と度胸がヘタレなのが一番の原因ですがね。
峰さんの方が押しているので、アンソロ「さすがは俺たちのエルシドさん」収載の「想い」からちょっとつながっていると考えてもいいかも。

聖衣着脱時のアンダーと服の関係は謎なので、あまり追求なされませぬよう(笑)

なぜ聖闘士の修行地に刀剣の研ぎ師がいるのか、ということについての説明をしてみました。
鍛冶と水の話はただのでっちあげです。何か理由をつけたかったので。
峰さんのお父さんについては、先日オフでM様にうかがった設定を参考にさせていただきました。ありがとうございます!
ラカーユのお父さんもですが、峰さんのお父さんもただ者ではなかったり…?

最初「お父さんの形見の緑茶」を飲むことにしようかと思いましたが、茶は東洋から西洋に運ぶ過程で発酵して紅茶になるので、峰さんのお父さんが一般人だった場合、もし日本から来たのだったら、海路でも陸路でも、「緑茶」としては持ってこられないだろう、ということで、そのくだりは少し書き換えました。
そもそもうちの聖域ではよくお茶を飲んでいますが、18世紀ヨーロッパでは一般人に喫茶はどのくらい広まっていたかとか…ま、聖域の周辺はこの当時トルコだし、聖域が「一般」と言えるかどうかわからないし、ということでそのへんの時代考証はスルーで…!

外伝では峰が死んだことがフェルサー闇落ちの引き金になるわけですが、峰が死ななかったとするとどうなんでしょう。それでもエルシドや峰の探求心が眩しいと同時に、自分にはないということで嫉みによる鬱屈は溜まるかもしれません。峰(もしくはエルシド)に対する個人的な感情(=恋愛感情)があったとしたら、嫉妬心というものもそこに加わるかもしれません。それでも修行地を出て、他の道を見つけて、時間がたてば、いずれその鬱屈は克服できたでしょうか。答えのない「if」ですが。
もし杳馬さんの闇の一滴がなかったらあの双子は?というのに似ています。アスプロスの場合は遠からず破局が訪れたような気もしますが。

エルシドと、エルシドに縁があった人たちとのことを書こう!という一人エルシド祭り、後半戦。外伝関係者編、になるかな?
シジフォス→テンマ(×2)→峰→次は今度こそあの人にしようかな~
 

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性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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