いつかの誕生日その2。
20歳以上、26歳以下。
山羊座の黄金聖闘士の誕生日をお祝いする「黄金山羊誕2011」企画様への投稿作品です。
デジェル編(2011.1.9投稿)。
オリキャラは出ません。
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年が明けてしばらくの、凍てついた日。
珍しく、水瓶座のデジェルとの任務だった。北方の極寒の土地での不穏な小宇宙の動きの調査。
「一体、何が…」
デジェルは首をひねる。訪れた雪原の中の町は、どこも人気のない廃墟となっている。だが何かに襲われたわけではなく、集団で引き払ったような様子だ。いなくなった人々の行方は程無く知れた。この寒さの中でも何故か凍っていない湖のほとりにある、とある一つの町に集められていたのだ。そしてそこでは、吹きすさぶ寒風の中、人々が黙々と一体の巨大な像を造るのに従事していた。あらかた出来上がっているようだ。
「なんだ、あれは」
エルシドは目を細めた。神像のように見えるが、既存の神々のシンボルはついていない。そもそも何故こんなものを造っている?
と、近くの建物から一人の初老の男が出てきた。
「もうすぐだ…もうすぐ私が世界を…」
男の周りにぞわりと怪しい気配が漂う。この男…? 二人が進み出ると男がこちらに気づく。
「何者だ…だが私の邪魔はさせんぞ!」
男が両手を突き上げると周囲にいた人々が急に虚ろな表情になる。同時に像の目が開いて動き出す。
「こんな辺境と馬鹿にされ続け…我々こそが地上で最も優れた民なのだ! この私が導いて…世界を支配するのだ!」
厳しい土地での暮らしで鬱積してきた思い。それが何らかの小宇宙を操る能力を持つ男を動かしているようだ。凝り固まった、半ば狂気の念で。
「目を覚ませ!」
デジェルが叫ぶ。だがすでに男の耳には入らない。男が手を振ると今度は湖の水が盛り上がり、こちらに押し寄せてくる。
「オーロラエクスキューション!」
デジェルが技を撃つと襲いかかってくる波が瞬時に凍る。男は歯軋りをしながら再び両手を突き上げる。巨像がこちらへ動いてきた。虚ろな表情の人々が何人か倒れる。どうやら男は人々の生気を吸い上げ、像に投入しているらしい。この気温だ、放っておくと長くは保つまい。さっさと片をつけねばならない。再び襲ってくる波をデジェルが抑えている間に、エルシドは像の近くに飛び込んで腕を振るった。巨像が上から下まで真っ二つに斬り裂かれる。
「なにっ…!」
男が驚いて見上げる中、
「ジャンピングストーン!」
倒れかかる巨像を、エルシドは湖の中に蹴り飛ばす。すかさず、デジェルの放った拳が、湖全体を凍らせ、依り代となる像を湖の中に閉じ込める。男は何かを叫びながらわずかに残った開氷面に身を躍らせた。二人が止める間もない出来事だった。
人々がようやく我に返ったように顔を見合わせ始めた。どうやらこの町に集められたのも今初めて気づいたらしい。正気を失った男の精神に操られていたようだ。二人は主だった人物を探し出して事情を説明すると、その地を後にした。
「ちょっと宝瓶宮に寄って行かないか」
聖域に戻り、教皇の間からの報告から戻るとき。デジェルが立ち止まってエルシドを振り返った。奥の間に入ると、デジェルは机の上に置いてあった一冊の本を手に取った。
「先日手に入れた本にたまたま混ざっていたものだ」
見ると、自分の故郷の地を扱った叙事詩だった。久しぶりに目にする、故郷の言葉。
「もし良かったらもらって欲しい。特に必要なものではないが、貴方なら興味があるのではないかと思って。今月は貴方の誕生月だから、その記念にでも」
「ああ、そうだったな…。ありがとう、もらっておく」
礼を言って、エルシドは宝瓶宮を辞した。一人ではなく、互いに気遣い、助け合える同僚がいるということは良いものだ。戦いの続く日々だが、今日は少しだけ良い日かもしれない。
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誕生日話、二本目。今回も任務+誕生日ネタ。
最初と最後をマニゴルド話の方とあわせてみました。
マニゴルド話は特に寒そうな描写は入れませんでしたが、そういえば真冬なんだよなあと思ったので。
寒そうなネタならデジェルさんで決まり!と。原作のブルーグラード話を参考に。
シュラとカミュとは違い、お隣とはいえエルシドとデジェルさんとは原作で一切絡みはないですが、この二人は案外馬が合うんじゃないかと思って作ってみました。
しかし黄金が二人も出張る程の任務ではなかったか…?
この代の水瓶座は読書家の「知の聖闘士」なので「本」ネタで。
実在のエルシドを謳った叙事詩『わがシッドの歌』、もちろん星矢とは全然関係ないですが、おもしろかったです。デジェルさんがくれた本がそれかどうかはわかりませんが。
改めて、エルシド様、誕生日おめでとうございます!
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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