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水場で顔の泥を落とし、手甲を引き締め、気持ち背筋を伸ばす。深呼吸を、一つ。意を決して臨んだ十二宮の石段は、いつもよりずっと長く見えた。
単独では初めての任務を終えたラスクは、教皇の間へと向かうところだった。任務と言っても、青銅たった一人に任されるだけあってそこまで重要なものではない。ロドリオ村の、季節外れの大雨による土砂崩れ。怪我人こそ出なかったが、それによって寸断された街道を切り開いてきたところだ。特に変なことはしでかしていないし、ただ単に「報告」すればいいだけだ。訳も無く早鐘を打つ胸にそう言い聞かせて、少年は一歩一歩石段を上っていった。
聖戦が近く、様々な任で黄金聖闘士も聖域を離れがちな昨今、十二宮には空の宮も多い。顔を合わせた黄金聖闘士には先達の見よう見まねで挨拶しつつ、ラスクはさほど時間も掛けず磨羯宮まで辿り着いた。ラスクはここの主の直属の部下だ。第二の師とも仰ぐ人の宮へ踏み込むと、よりいっそう緊張してくるようだ。今は、いるのだろうか。
「──帰ってきたか。早かったな」
磨羯宮を何事も無く抜けるかというところで、居住区から出てきたらしいエルシドに、背後から声を掛けられた。驚きのあまり、きっと肩が跳ねていただろう。
「はい、羅針盤座のラスク、ただいま戻りました!」
言うと、エルシドの相貌が、若干緩んだように見えた。そのままラスクに近づいて、まだエルシドの胸にも届くかという位の頭に、ぽん、と手を置く。
「よくやった」
エルシドはなかなか寡黙な質で、部下たちへも声を荒げることは少なく、賛辞を述べることは更に稀だ。それを思い返して嬉しさが込み上げてくるまで、少し時間がかかった。
「……ありがとうございます!」
今度はうってかわって、素早すぎるほどに頭を下げる。エルシドは少し驚いたように目を見張って、それから真顔に戻った。
「さあ、早く行ってこい」
「はいっ!」
それまで過ぎるぐらいに引き締めていた態度をだいぶ崩して、ラスクはまた石段を上っていった。
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(2011.4.24修正)
ラスクくん、かわいいよ。13~14歳くらいの設定なのですが。
聖闘士に、部下になってまだ間もなく。
ラスクの守護星座は、はじめ望遠鏡座の予定でしたが(夢界から出てきたエルシドを最初に見とめて目が良さそうだったため)、望遠鏡座は1763年のラカーユの制定なので飛魚座に変更していました。望遠鏡座は山羊座の近くなので残念だったのですが…。さらにアニメ設定で羅針盤座に変更。しかし改めて探すと、あいている星座少ない…! ラカーユ星座はたくさんあいてるけどね~「(銀)蠅座」以外。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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