---
「ご苦労だったな。明日は休日だ。皆ゆっくり休め」
数日に渡った任務が終わり、エルシドとその部下たちは聖域に帰還した。エルシドに挨拶して、部下たちはそれぞれ自分の宿舎の方に向かっていく。ティソナとエルシドはちらりと目を交し合った。エルシドは微かにうなずき、十二宮を上っていった。
女聖闘士の宿舎に戻り、ティソナは手早く身を清めると、こんなときのために用意しておいたお茶とちょっとした食べ物などの包みを作って宿舎をそっと出た。もう日はとっぷりと暮れ、あたりはすっかり暗くなって星が出ていた。
十二宮を上っていく。自宮にいる黄金聖闘士と顔を合わせないように、通行の声をかけて素早く通り過ぎる。幸い、出てくる黄金聖闘士はいなかった。無人なのか、暗い宮も多い。人馬宮を抜けて、ティソナはほっと息をついた。
磨羯宮も表の間は暗かった。
「エルシド様?」
ティソナが声をかけると奥で返事がした。奥の間に入ると、エルシドが平服で書類を読んでいた。
「あ、次のお仕事ですか?」
「ああ」
「お茶、いれますね。これ、疲れが取れる効能があるんですって」
ティソナがハーブの茶をいれて出すと、エルシドは書類を傍らに置いてカップを手に取った。二人はゆっくり茶を飲んだ。無言だが満ち足りた時間。飲み終わるとエルシドはカップを置いて言った。
「今日はもう来ない気かと思ったぞ」
言葉とは裏腹に、目元がわずかにほころぶ。
「すみません、遅くなって…」
口づけは甘いハーブの香りがした。
磨羯宮の裏にはちょっとした空間があった。裏庭と言えば言えるのだろうが、双魚宮のような花の咲き乱れる庭園ではもちろんない。宮の世話をする雑兵らによって草は短く刈られているが、雑草以外特に何もないところだった。
「あ、リコリスですね」
そんな中でもティソナは目ざとく片隅に咲いていた白い一重の花を見つけ出した。
「この花の意味をご存知ですか? 『誓い』という意味なんですよ」
「ほう」
朝、簡単な食事を済ませて二人は磨羯宮の裏庭にいた。もう暑くはないが、まだ寒くもなく、外にいるにはいい気候だった。
「おかわり、いれてきますね」
ティソナが新しく食後の茶をいれたカップを持って戻ってみると、宮の壁に寄りかかってエルシドは目を閉じていた。もしかして寝てる? そういえば眠っている顔って見たことがない。いつも私が眠るまで起きているし、私が目を覚ましたときはもう起きている。目を閉じている顔は案外若く見え、ティソナは少しどきりとした。
「…どうした?」
エルシドは目を開けた。
「やっぱり起きてたんですか?」
ちょっとすねたように言ってみる。
「なんだ?」
穏やかな笑みを浮かべてエルシドが尋ねる。
「私だけ…ずるいですね…エルシド様のこんな笑顔を見るのは」
「今日は、別だ」
今日は、束の間の休日。
---
心が通じ合っていれば、特に話をしなくても二人でいられるだけで幸せだよね!
今回はハーブティーにしてみた。結構古くから飲まれてたみたいだし。
ティソナちゃんは聖闘士修行始めてから料理とかしてないと思うけど、まあそのへんは適当に。
十二宮に詰めてることもある黄金聖闘士のために、女官さんが食事を持ってきてくれたり(原作12巻のデジェルさんのところ参照)、保存食を置いておいてくれたりしてるんだよね、きっと。黄金以外の聖闘士や雑兵にはきっと厨房つきの家とかないだろうから、聖域には食堂があるんじゃないかと思うのだが、黄金聖闘士さんたちが食べに来ることとかあるのだろうか? …なんだか合宿所みたいな印象になってきたぞ。
「弔い酒」の花のネタにちょっとつなげてみた。もともとはろん様からのネタです。
えーと、考えちゃ駄目だと思うけど、18世紀の人ってきっとお風呂とか水浴びとかめったにしないよねー
欧米人はもともと体臭きつそうだしなー
NDの十二宮の図を見ると水路だか小川だかが通ってるみたいなので、そこから飲用の水ぐらい各宮に引いているんじゃないだろうか。さすがに各宮に風呂まではないと思うけど。サガが入ってた教皇の間の大浴場(笑)はいつできたものなのだろうか。お湯はどうやって…? サガの時代は20世紀なんだけど、聖域に、特に十二宮にガス・電気は通ってなさそうな感じなんだよね。二次創作ではよく沙織さんがグラード財団の威力で電化したりしているような。ふつーに十二宮にテレビがあったりするのもありますが。
トイレとか下水とかは…ロスキャン時代は考えちゃ駄目…?
古代ローマは公衆浴場とか普及してたよね。下水道もあったっていうけど、はたして聖域は?
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
何かありましたら
mcbt★br4.fiberbit.net
まで(★を@に)。
Powered by "Samurai Factory"