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背は多分もう追い越した。
あれから一年近くが過ぎた。このところずいぶん背が伸びた。ラカーユと目線が並ぶくらいに。そのラカーユもあれ以来少し無口になった。あのころはよくわかっていなかったことも、いろいろわかるようになった。あれから、皆あえて彼女の名は口にしない。特に、エルシドの前では。
それでも一番変わらないように見えるのはエルシドだった。自他ともに、厳しく対するさまは変わらない。その中で時折見せる部下への気遣い。それも変わらなかったけれど。そして危険な任務には皆を待機させ、一人で赴くことが一層多くなった。
「自分の目の前の敵を倒すことを一番に考えろ。命を粗末にするな」
エルシドが言ったのはそれだけだった。それだけ、だったけれど。
ラスクは一層鍛錬に励むようになった。以前は四人一緒に、ときにはエルシドを交えてのことが多かったが、最近は時間が空けば一人でも鍛錬に行った。だがそれはラカーユもツバキも同じらしく、示し合わせたわけでもないのに修練場でばったり顔を合わせる、ということもたびたびあった。エルシドが修練場に顔を出す回数はめっきり減った。だがそれは鍛錬をしなくなったわけではなく、むしろその逆だった。黄金聖闘士が全力で放つ技はすさまじい威力がある。周囲への影響を考えて、修練場以外の人のいない場所で技を磨いているらしかった。実際ぼろぼろになった修練着で外から帰ってくるのを一度見かけた。その顔つきの厳しさに、声をかけることができなかった。
冥闘士来襲の報が多くなっていた。今日も近隣の村へ四人で向かう。多数の冥闘士の姿が見えた。エルシドは一閃で雑兵どもを薙ぎ払う。残った冥闘士へ各自が対峙する。
でかい…! ラスクは目の前に立った冥闘士を見て思った。
「俺の相手はこの坊やちゃんか!」
冥闘士は言いしなに腕を振るう。動きは速い。なりはでかいが鈍重というわけではないようだ。ラスクは素早くよけながらその弱点を探った。確かに動きは思いのほか速いが、やはり体が大きいせいか死角ができるようだ。ラスクはフェイントをかけ相手がのったところに、電光石火の動きで体の下に入りこんで喉元を狙った。ティソナほどではないけど俺だって動きの速さには自信があるんだ! 手ごたえがあった。やった! …誤算だったのは相手が自分の上に倒れてきたことだった。
ラスクはやっとのことで相手の体を押しのけて立ち上がった。
「ラスク! 大丈夫か」
ツバキが心配そうに声をかけた。
「大丈夫」
エルシドが歩み寄ってきた。手が頭の方に動きかけたのを止めてちょっと苦笑し、肩をたたいて言った。
「よくやった」
「はい!」
部下になったばかりのころのように勢いよく返事をすると、エルシドの笑みがわずかに深まった。見事に敵を倒した黒髪の少年。ふとその目つきが変わったような気がした。目の前の自分ではなく、別の誰かを見ているように。一瞬のことだったので、それは気のせいだったかもしれなかった。
一人前の部下として、少しでもエルシド様のお力になれるように。ラスクは心の中で誓った。
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ふう、やっと部下話一通り終わった。
「黒髪の少年」第2話、ラスク編。
エルシドが見ていた「別の誰か」とは…?
「墓地」のエピソード前後。
部下三人組はティソナのことを話題にはしないけど、きっとそれぞれときどきお墓参りに行って近況報告してたりするんだよ。俺たちがエルシド様のお力になるから!とか思いながら。
…そして彼らは最期エルシド様のお力になれずに終わるのですよね。むしろお心の負担になったよ! それを思うとちょっと辛いけど。せめてその前に頑張っているところを。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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