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あれ以来、会っていなかった。
エルシドは黄金聖闘士の任務でずっと聖域を離れていた。
もしかして迷惑だった? もしかしたら避けられている? あの時限りだとしても、それでも…
後悔はしていないだろうか? 性急に過ぎてはいなかっただろうか?
「寄っていくか?」エルシドが声をかけると、ティソナは応え、二人は磨羯宮に入った。
双魚宮の主のくれた花を生けた後、お茶をいれ、そしてティソナは自分から仮面をはずす。恥ずかしそうな笑顔。
「お前はこれでいいのか?」エルシドが口を開くと、ティソナは顔色を変えた。「この前に言ったことは変わらない。…俺はお前に何も与えてやれない。こんなひとときぐらいしか」
ティソナは首を横に振る。
「すでにいっぱい与えてもらっています。…私の方こそご迷惑だったのではと…」
声が震えていた。ティソナははずした仮面の方に手を伸ばす。「私が自分勝手な気持ちをぶつけただけでしたら…もう二度と…。ただ部下としていさせていただければ…」
エルシドは仮面の上のティソナの手を抑えた。ティソナが顔を上げる。
「俺たちは…俺は聖闘士だ。この前言ったことは変わらないが…俺はその場限りのつもりでお前を抱いたわけではないぞ。ひとときでも、俺はお前の顔が見られれば嬉しい。…お前が後悔していなければだが」
「後悔なんか…!」ティソナは強く言う。「エルシド様に愛していただいて嬉しかったです。私の方こそ…エルシド様には何も…。子どもさえも…」
「子、か。今の俺には子を守り育てる自信はないな…。イリアス殿が聖域を離れられ、レグルスをもうけたのは既に死病に冒されたことを知っていたからともいうがな…」
「そうなんですか…」
「お前、まさか…」
はっとしたように言うエルシドにティソナは微笑んで返した。
「私の体は何にもありません。私も聖闘士です。女聖闘士には子ができることを妨げる術があるんです」
「そうなのか? だがお前の体に負担がかかっているのではないのか?」
「大丈夫です。まずいお茶を毎日飲むくらいですから」
「そうか。…すまない。お前にばかり気を遣わせていたようだ」
「いいえ」
ティソナは笑顔でエルシドを見上げる。その笑顔に、エルシドはティソナの体を抱きしめる。
「すまん。言わずもがなのことを言った。お前が自分から仮面をはずしてくれたのにな」
「いいえ…嬉しいです…私は幸せです、エルシド様」
嬉し涙がティソナの頬を伝った。
「たまには茶でもいれに来てくれ」
エルシドの手が頬にふれ、優しくその涙を拭った。
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「女聖闘士の生活(1)」とかも踏まえてます。
イリアスさんが聖域を離れたのが病気のせいかどうか、レグルスが生まれることになったのが聖域を出てからのことなのか、そもそもレグルスがイリアスの実子なのかどうか等々は不明ですが、なんとなくそうかなあと思ったので。
主編では二人とも言わなくてもお互いわかっているように書いていますが、恋愛の過程には「本当はどう思われているんだろう?」みたいな逡巡や行き違いってあるよね…っていうのがちょっと書いてみたくなって。互いに相手を大切に思っているのに、それゆえにすれ違ってしまうとか。修羅場にはならなかったけど、本当はこんなこと言わないかも、とも思うので主編とは別にしてみました。
聖闘士、特に黄金聖闘士は忙しいと思うので、そんなにしょっちゅうは会えないよね…。「デート」とかも行かないだろうしね。聖戦中だし、この時代だし。エルシドは口下手そうなので気の利いた話とかできないだろうから、会えば体で気持ちを伝えあう、ていう方向に行くと思うけど、カラダだけのつながりじゃないよ!と言いたかった。正式に「結婚」してなくても、ね。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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