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「わ、降ってきちゃった……」
怪しい雲が来ているとは思ったが、帰り着くまで待ってくれなかったか。ぽつぽつと頬を濡らしだした雨粒は、アガシャの不用意をあざ笑うかのようだ。……だって今日は寝坊しちゃって、天気予報を見る暇が無かったんだもの。
雨宿りをと思ってもこの分厚い曇天、そう簡単に晴れてくれそうにないし、別にちょっと濡れたって。えい、とばかりに意を決して、あまり濡らしたくないものばかり入った学生鞄を抱え込む。
そのまま一、二、三歩と、駆け出しかけた時だった。
視界が一瞬で真白に染まる。きゃっと小さく声を上げて足を止めるのと同時に、肩に大きな手が乗った。
「すまない、驚かせてしまったな」
「……アルバフィカさん……」
片手で白い傘を持った美貌の人には見覚えがある。聖域学園一の美男としても勿論だが、父の店を折々訪れる彼は、入学前からどことなくアガシャの目を惹いていた。
「君の家はあの花屋だろう? 入っていくといい」
「あ、ありがとうございますっ」
アルバフィカの声音は遠目に見ていた頃の想像よりもずっと優しくて、思わずお礼の言葉も上ずってしまって上手く口から出ない。変な奴だと思われてしまっただろうかとこわごわ憧れの人を見つめたが、アルバフィカの表情は相変わらず穏やかだ。ほっとしたと同時に、今度はなんだか恥ずかしくなってくる。
「直接話すのは初めてだな。今更かもしれないが、私はアルバフィカ……君は?」
そんな一人百面相をしていると、不意にアルバフィカが話しかけてきた。心臓が跳ねる音が聞こえたような気がする。
「アガシャ、です……」
雨の音に消えてしまいそうな声だったが、アルバフィカにはしっかりと聞こえていたようだった。綺麗な名だ、と言って微笑む姿は、名前などよりずっと綺麗で。
この人と歩くのは、嬉しいけれど心臓に悪い。なんとなく矛盾した気持ちを抱えて、アガシャはアルバフィカが合わせてくれる緩い歩調のまま帰途を辿った。
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「♪歩く速さに気をつけて合わせてくれる優しさに~」
アガシャちゃん、かわいいです。
毒設定ないと普通に会話したりふれあったりできるのがいいよね。
このまま恋愛に発展しない?
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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