ラカーユ追想。
聖闘士になるまでと、なってから。
ラカーユ話その3。
オリキャラヒロインありの話です。
(部下名前変更―2011.4.24、修正―2012.5.6)
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初めて会ったのは聖域に来て間もない頃。二人ともまだ子どもと言ってもいい年代だった。ティソナは昔から小柄だったから、最初は同じ年だとは思わなかった。それぞれ師匠について修行していたが、時折修練場で顔を合わせることもあった。「顔」と言っても、向こうは女聖闘士の候補生、顔は仮面で見えなかったのだが。チビなのに根性があって頑張り屋、という印象で、自然と目に留まった。女の聖闘士候補生は珍しかったこともある。
初めて手合わせを申し出たのは、あんまり頑張っているので、ちょっとからかってみたくなったからだった。数合打ち合ううち、ラカーユは表情を引き締めた。本気を出さないとやばい…。だがそう思った次の瞬間。喉下に相手の手が突きつけられていた。
「実戦だったら、その首落ちてるよ」
突きつけた手刀を引きながら、少女は言った。声にちょっと得意げな感じがにじんでいた。悔しかった。甘く見ていた自分が恥ずかしくもあった。次のときはリベンジを期して、やがては純粋に好敵手として、二人はしばしば組み手をするようになった。結果は勝ったり負けたりだったが、充実した修行の日々だったと思っている。
「…お前、動き速いのなー」
「だって、私のこの体じゃ肉体的にはどうしてもパワー不足だもの。スピードで補わなくちゃね」
ティソナは身のこなしが軽いことを自分の最大の武器にしていた。素早く相手の胸元に飛び込んで、また素早く飛び離れる。そんな動作が身上だった。
聖闘士になってからも、二人はときに手合わせをしていた。つい鍛錬に熱が入って遅くまで修練場にいたある日。忘れもしないあの日。さすがに引き上げようとしていたとき、誰かが修練場に入ってきた。背の高いその姿はまだ人が残っているのを見ると少しためらったようだったが、そのまま修練場の端の方に歩いていった。軽く体を動かした後、小宇宙を高めるのが感じられた。尋常ではないその小宇宙の高まりにはっとした。ここまでの小宇宙を持つ者といえば…黄金聖闘士!
エルシドが――もちろんそれは山羊座の黄金聖闘士、エルシドだったのだが――放った拳は、鮮やかな金色の光を放って修練場の端の岩壁を見事に真っ二つに割った。二人は声もなくその光景に見入っていた。圧倒的なパワー、美しいまでに鋭く鮮やかな剣技。
なおも何度か技を放った後、エルシドが引き上げようと向きを変えたとき。
「エルシド様…!」
ティソナがエルシドのもとに駆け寄っていった。ラカーユもその後を追った。すると、今まで気づかなかったが、その場にいたらしいもう一人の男がエルシドのもとに寄ってきた。
「何だ、お前たちは」
ティソナにとって、ツバキの第一印象は非常に悪かったようだ。むっとしたように問い返す。
「あんたこそ、何よ」
「俺はエルシド様の部下だ」
ティソナはちょっと虚を突かれたようだった。が、すぐに気を取り直した。
「私も部下に加えてください、エルシド様!」
「俺もお願いします!」ラカーユも思わず続けていた。聖闘士になったらすぐ言おうと思っていたのだが、このところなかなかエルシド様に会えないでいるうちに、先を越されてしまった。
今度はツバキが苦虫を噛み潰したようなむっとした顔になった。後ろでエルシドが少し苦笑したようだった。そして表情を改めて言った。
「今日はもう遅い。明日お前たちの技を見てやる。それからだ」
「はい! ありがとうございます」
「よろしくお願いします!」
そうして、俺たちはエルシド様の部下になったのだ。
ティソナが密かに「剣」の技にこだわっていたのは、エルシドの技を知っていたからだと、後になって知った。その剣技は見ていたからそれも納得がいった。エルシドの剣技は部下たち皆の憧れだった。ツバキとラスクには「剣」に似た技はなかったが、ラカーユとティソナは違った。もちろんエルシドの「聖剣」には遥かに及ばなかったが、ティソナはほどなく鋭い短剣のような技を会得した。ラカーユも「剣」を手に入れたが、ラカーユ自身はひそかに、自分の「剣」はティソナのそれよりは長いかもしれないが、鋭さにおいて劣るのではないかと思っていた。ティソナとの手合わせでは、その気迫に圧倒されることも多かった。自分ももっと精進しなくてはといつも思っていた。
意識するようになったのはいつからだろう。手合わせはよくしたし、実力も近かったからそれはそれで有意義な時間だった。それ以上にティソナと話すのは楽しかった。ティソナも俺といるときは楽しそうにしていたと思う。ティソナは声によくその気持ちが現れるので、顔が見えないのにもそのうち慣れた。毎日会えるわけではなかったが、どんな顔をしているのだろうと、いつしかよく想像するようになった。聖闘士たるもの、特定の誰かはいないのだろうと思っていた。その誰かになれたら嬉しい、と思った。冗談めかして軽く振っても、いつもさりげなくかわされたが。
エルシド様は俺たち部下全員にとって、もちろん特別だ。その「特別」の中に、さらに違う「特別」が混ざっていたとは。その思いが始まったのはいつのことだったのだろう…? それでもエルシド様の部下として、ともにいられると思っていた。
その「短剣」が折れたのはあまりに早過ぎて。エルシドの懐刀たる二振りの剣。磨羯宮の双剣。そう呼ばれるのが夢だった。今はもう叶うことのない――。
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ツバキくんが、ちょっとアレだが。
「磨羯宮の双剣」って言いたかったよなあ…
ラカーユくんは当初ティソナと対の名前「コラーダ」で(由来はこちらを参照)、守護星座も「冠座(コロナ・ボレアリス)」でした。どちらもアニメ設定にあわせて変更し、外伝へのラカーユ登場により同期設定もはずしたので、「対」の感じはだいぶ薄れてしまいましたが、我が家ではヒロインへの特別な思いのある男ということになっています。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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