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Posted by MCBT - 2010.11.06,Sat
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「慟哭」(×オリキャラヒロイン、2015.2.14「主編」より独立)のラカーユ視点からの補足。
後半は新規。別の意味で「慟哭」(苦笑)。
ラカーユ話その2。

(部下名前変更―2011.4.24、修正―2012.5.6)
 


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---


 その化け物はどこか人に似ていた。人間と、植物とを適当に混ぜて作られたようだ――ラカーユは嫌悪感とともにその姿を見て思った。エルシドと部下四人はそれを追い詰め、町はずれで取り囲んだ。
 逃げ切れぬと悟ったのか、化け物は動きを止め、まるで一人一人の顔を確認するかのように、ゆるゆるとその「顔」を動かして見回した。その「視線」がラカーユを通り越してティソナにとまる。ふいに、油断なく身構えていたティソナの体勢が崩れた。体を硬直させたかと思うと、腕がだらりと下がる。どうした――?
「気を散じるな、ティソナ!」
 エルシドの鋭い声が飛んだ。ほぼ同時に、化け物がその鉤爪のついた触手をティソナに向けて振るった。ティソナはかろうじて体を動かしてそれをよけたが、顔の左側、仮面のきわを抉られて鮮血が飛び散る。気を取り直したようなティソナが小宇宙を燃やしてゆっくりと前へ踏み出す。なんとなくいつもと動きが違う。
「グリタリングサークル…」
 光の輪が立ち上がる。化け物の「足」の部分が断ち切られ、がくりと膝をつくようにくずおれる。いつもなら一瞬で息の根を止めるために、敵の全身に光を浴びせるのだが。
 ティソナは化け物の前に立ちはだかり、手刀でばさりとその胴を薙ぎ払った。真っ赤な返り血が聖衣から仮面にかけて降りかかる。それに頓着することなく、返す刀でその「顔」を縦に斬り下ろした。そしてその首を斬り飛ばす。残った「胴」を寸断するようにさらに斬りつける――。
「もういい」
 エルシドがティソナの肩に手をかけた。ティソナはようやく動きを止めた。化け物の姿は既に原形をとどめず、あたりはそれの血で真っ赤になっていた。ラスクは顔面蒼白になって口を押さえていた。
「どうした」
 エルシドが問うた。
「精神攻撃を…かけてきました。幻を見せて…!」
 ティソナが声を絞り出すように言った。ツバキが眉を寄せた。個人的な精神攻撃? そんな高度な技を使えたとは。ラカーユは驚いて、化け物の残骸を見やったが、すぐに目をそらした。ティソナの心の動揺を表すように、そこは無惨な有様だった。

 聖域に帰りついた。エルシドは部下を解散させたが、ティソナの方を向いて言った。
「お前はちょっと磨羯宮まで来い」
「はい…」
 仮面は無表情だが、答える声が硬い。
「ティソナ、エルシド様に何か叱られるのかな?」
 二人を見送りながら、ラスクはまだ青い顔をしながら言った。ティソナらしくない先ほどの行動。
「いや、それはないだろう」
 ツバキは難しい顔をしながら答えた。ラカーユは心配しながら、十二宮を上っていく姿を見送った。

 ティソナのことが気にかかった。顔は見えないが、敵を倒した後でも声も態度も硬く、明らかに様子がおかしかった。ラスクのようにエルシドに叱責されているとは思わなかったが、精神攻撃を受けたと言っていた。どうしているかが気になった。傷も負っていたようだったし。
 磨羯宮の表の間には二人の姿は見えなかった。扉が完全に閉まりきっていない奥の間から、静かなエルシドの声と、懸命に抑えているようなティソナの声が聞こえた。少しの間、声がやむ。そして、堰が切れたようなティソナの叫び。
 その悲痛な声に思わず身を引いたとき。扉の隙間から見えたものは。テーブルの上の金色の山羊座のヘッドパーツ。そしてその隣に置かれている銀色の女聖闘士の仮面。
 気がつくと十二宮の階段を下りているところだった。いつ磨羯宮を出たのかは記憶になかった。


「昨日は驚かせてごめん」
「もう大丈夫? エルシド様に叱られなかった?」
 ラスクはまだちょっと心配そうにティソナを見て言った。
「ううん。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」ティソナは答える。
「良かった」もう、いつものティソナだ。ラスクは胸をなでおろした。
 ツバキもほっとしたような表情をしていた。
「…ラカーユは?」
「今朝はもう修練場に行ったようだ」
「ふうん…? 早くから、珍しいわね」

 ラカーユは一人黙々と鍛錬に励んでいた。拳を繰り出し、蹴りを放ち、小宇宙をこめて岩を割り、砕く。何も考えないように体を動かし続けた。しぱらくすると息が上がって動きを止めざるを得なくなる。そうすると否応なくよみがえってくる映像。金色の山羊座のヘッドパーツと、その隣に置かれた銀色の女聖闘士の仮面。その映像を振り払うように闇雲に体を動かしていた。
「おい」
 振り向くとツバキが立っていた。少し離れたところにラスクと…ティソナが立っているのが見えた。
「相手になってやる。来いよ」
「よし」
 ツバキの言葉にラカーユはうなずき、二人の激しい組み手が始まった。ややあって二人の動きがぴたりと止まる。それぞれ相手の急所の手前で拳を止めていた。
「腕を上げたな、ラカーユ」
「そういつまでも負けていないぜ」
 聖闘士としては一日の長があるツバキが言うと、ラカーユはにやりと笑って返した。
「少しは気が晴れただろ」
「…何の話だ」
「いやいい」
 ツバキとラカーユは、他の二人に合流しに行った。

 四人でひとしきり鍛錬をして、一休みしているとき。
「お前、今…幸せか?」
 ラカーユはティソナの顔を見ないようにして聞いた。どうせ「顔」は見えないのだが。
「…なに、急に?」
 ティソナはいぶかしげに問い返す。声が少しぎくりとしたようなのは思い過ごしか。
「あ、いや、この前からちょっと鬱ってただろ」ラカーユもごまかすように言葉を継ぐ。「昨日もなんか…」
「ああ…」ティソナはつぶやく。少し遠くを見るように顔を上げる。「父さんと母さんが死んだときはそりゃあ悔しかったし悲しかったよ。聖域に来てからだって辛いことや苦しいことはいろいろあった。だけど、私は今自分を誇りに思ってるし、後悔はしてない。エルシド様の部下になれたことだって…。私は今…幸せだよ」
「そっか…なら、いいんだ」
 それなら、いい。ティソナが幸せなら。
 ティソナとは同年齢でずっと競ってきた。ともにエルシド様の部下となり、その剣技に魅せられ、食い入るように見つめたものだ。二人ともに「剣」の技を得て、それを磨いてきた。いつのころからか意識するようになった。仮面の下の、その顔が見たいと。その顔が見られる特別の存在になりたいと。
 ティソナの視線がずっとエルシド様を追っているのは知っていた。だけどそれは、俺たちみんながそうだったから。同じものだと思っていた。その顔が見えたなら、その中に違うものが混じっていたことに気づいたかもしれないけれど。エルシド様に声をかけられたときの嬉しそうな態度、はずむ声。いつごろからだったか。ティソナに対するとき、時折エルシド様がほんの少しだけ優しい眼差しを見せるようになったのは。あるかなきかだが、他の者には見せることのないその表情。思い返せば心当たりがあることもあったのだ。
 ティソナの望みなら、それでいい。ああだけど、きっと、幸せそうな顔をして笑うんだろうな。


---



ラカーユ失恋話。
すまん、勝手にそんなキャラにして。

「この前からちょっと鬱」は「丘」のエピソードのつもりでしたが、「丘」が「聖闘士」の章の前後だとするとちょっと離れてしまうかな。まあそのへんはよしなに。

ラカーユくん、名前の由来は不明ですが、現在の88星座の一部を制定したフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユの綴りに則ってみました。そうだとすると現代の矢座のトレミーと同じ感じのネーミングだね!(全然意味も関連もないと思うけど)
 

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プロフィール
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MCBT
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非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

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