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「その資料なら…確か」
エルシドとシジフォスが人馬宮で次の調査の資料を探していたとき。
「ああ、デジェル、ちょうど良かった」
シジフォスは自宮に帰る途上の水瓶座の黄金聖闘士デジェルを呼び止めた。
「双子神の……の資料はお前が持っていなかったか?」
「ああ、それなら私のところにある」デジェルが答えた。「持って来ようか?」
「いや、俺が取りに行こう」
エルシドが腰を上げた。
「頼む。俺、今ちょっと手が離せないんで」
シジフォスは手に取っている資料を難しい顔で読みながら言った。
「今、帰りか?」
エルシドはデジェルと並んで磨羯宮を抜けながら聞いた。
「ああ。今回は偵察程度だが、北の方でも危うくなっているところがあるな」
「ふむ」
二人は互いの近況を交換しながら宝瓶宮の奥の間へ入った。
整然と本の詰まった書架が壁際に並ぶ宝瓶宮の奥の間。
「ここに入ったのは久しぶりだが」エルシドは書架を見回しながら言った。「相変わらずすごい量だな」
「いや、ここなど、ブルーグラードに比べれば全く大したことはない」
「ブルーグラード?」
「私の修行地だ。極寒の、産業とてない厳しい土地だが、知の集積地として無尽蔵の書物がある素晴らしい場所だ。聖衣を拝領してからめったに戻っていないが、私にとっては忘れがたい所なのだ。今でも友があの地で頑張っている」
ふだん冷静沈着なデジェルが、いつになく饒舌に、熱を込めて語るのをエルシドは少し驚いて見つめた。
「…ああ、貴方には関係のない話だったな。失礼した」
「いや。良いことだな。そのような場所と、友があるということは。お前がそんな風に話すのを初めて見た」
エルシドも穏やかな笑みを浮かべて応じた。
その顔を見て、デジェルは内心、貴方こそ、と思った。貴方こそ、最近ずいぶんそんな穏やかな表情をするようになったではないか。私が聖域に来た頃は、決して笑わずいつもきつい顔をしていたのに。
「探していたのは…これだったな。参考に、これも持って行くか?」
デジェルは書架から求められていた資料を引っ張り出した。
「助かる。しばらく借りていっても構わないか。用が済んだらすぐ返す」
「急がなくてもいい。…貴方なら安心だからな」
「?」
エルシドが不思議そうな顔をしたので、デジェルは苦笑しながら答えた。
「シジフォスにもときどき貸すんだが…あの人は用が済むと忘れてしまうことが多くてな。あとで聞いてみると『すまんすまん』とか言って大慌てで返しにくるんだが」
エルシドも苦笑し、借用の礼を言うと宝瓶宮を辞していった。
*
「とっとと行くぞ デジェル!」
ブルーグラードに赴くのは久しぶりだ。困難が予想される任務とはいえ、懐かしい地に行き、友と会えるかと思うと少しは嬉しい。
『私にとっては忘れがたい所なのだ』
『良いことだな。そのような場所と、友があるということは』
そんな会話を交わしたのは二年程前だったか。あの頃揃っていた黄金聖闘士はすでに半数、あの男を含めて、もはやこの聖域にはいない。…貴方は、最期まで全力であったのだろうな。
「何か言ったか!?」
「いいや?」
友のいる地へ向けて、もう一人の友とともに、デジェルは天蠍宮から出ていった。
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…そしてこの二人も、聖域には戻ってこなかったんですよね…
デジェルさんとの接点があるとしたら何だろう…エルシドは体術系だけど本とかは読みそうだよね(シジフォスも読んでるし)、というところから発想。磨羯宮には多分本はほとんど置いてないけど、必要があるとエルシドは上か下に行って借りるんだよ、きっと。そしてもちろんきっちり返しに行きます。
お隣だけど、あんまりこの二人は一緒に任に就いたりしてなさそう。
でも話すと案外馬が合いそうな気もする。
デジェルさんは目の前のことには気づくけど、それ以上は考えないのではないかと。基本的に他人に興味がない…というか他人の領域に踏み込まないというか、そんな感じ。
自分で書いてるのに、エルシドの過去がちょっと気になったりします。聖域に来るまでに何があったんだろうか。単に生真面目なだけかもしれないけど。
シジフォスは相変わらず出番ちょっとです。多少しょうもない奴にもされてます(笑)。
参考に、カミュがシュラに何て呼びかけてるか探したけど見つかりませんでした。カミュはサガには「あなた」って言うんですが。
見えなくなっちゃった某シュラカミュサイト様がもう一度見たいなあ…。格好いいシュラも見たいです…。
カミュは美人な感じがするけど(ハーデス編)、デジェルさんは男性っぽい気がする。
あ、うちは掛け算ではありませんよ、念のため。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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