筆頭部下となるツバキがエルシドの部下になった経緯の捏造。
ツバキ話その3。
部下の過去捏造話ですが、オリキャラは出ません。
(部下名前変更―2011.4.24、後書き追加―2012.5.6)
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ツバキはいらない子どもだった。しがない商売人の一家には、食わせる口が多いことは負担だった。「跡取り」には兄がいた。無駄飯喰らいと疎まれているのを感じ、ツバキは乱暴者のもてあまされ者として育った。
おとなしい兄は体が弱く、あるときひどい熱を出した寝込んだ。すると両親は突然ツバキに構い出した。嬉しかったが、商売人の父親がいつも人に媚びているさまは嫌だったので、急にそんな商売を継げと言われるのは気が進まなかった。だが保たないと思われていた兄が回復すると、両親は手の平を返したように以前と同じように冷たくなった。
――ここでは俺はいらない子どもなのだ。
ツバキが家を出たのはそれから間もなくだった。年の割に背が高く腕っぷしも強かったため、子どもながら何とか食いつないだ。戦乱で荒れた土地を通り、聖域に流れ着いたのは偶然だった。うすうす自覚していたが、自分に奇妙な「力」があり、その「小宇宙」を発現させられることを知った。「力」で暮らせることが少し気に入り、それなりに腕を上げた。だが完全に聖域の思想に共鳴したわけではなかった。思いがけず聖闘士になってからも、どこか投げやりな、荒んだ雰囲気を隠さなかった。
シジフォスとエルシドの双子神の調査に、数人の白銀と青銅の聖闘士が同行することになった。
「これは…ひどいな」
シジフォスは眉をひそめた。双子神は何かを探しているがそれは発見されなかったらしく、同行したと思しき冥闘士か化け物が腹いせにか村を荒らしたらしい。間に合えばと思って人数を連れてきたのだが、手遅れだったようだ。いまだ血臭が残り、遺体は打ち捨てられたままだった。空気も淀んだ嫌な感じだ。
「痕跡が新しい。まだその辺に残っているやつがいるかもしれん。何人かで組になって見廻れ。生き残りの村人がいないかも確認するんだ。終わったら遺体を埋葬しよう」
ツバキは一人で村の中を歩き廻った。老若男女かまわず皆殺しにしたらしい状態に、さすがにいい気がしなかった。ふいに首筋の毛が逆立つような、負の小宇宙を背後に感じた。振り向くと、一人の冥闘士が立っていた。
「ふん、もうお出でなすったか」
一人か。ツバキは辺りの気配を探りながら構えた。これなら俺一人でやれる。そう思ったとき、相手がすっと片腕を上げた。何だ――? と、辺りの死体がゆらりと身を起こした。虚ろな表情のままこちらに向かってくる。
「――!」
ツバキは長槍のような技を放った。何人かがまとめて串刺しになったように倒れた。だが気づくと死体に周りを囲まれていた。直線的なツバキの技では倒せる範囲が狭い。胸に大穴の開いた死体も再び立ち上がってきた。一斉に手を伸ばしてつかみかかってこようとする。まずい――!
そのとき、死体が宙にはじけ飛んだ。足や腰のところで切断されて地面に崩れ落ちる。ツバキが顔を上げると、少し離れたところに、山羊座の黄金聖闘士、エルシドが立っているのが見えた。
「何をしている! こちらに来い」
単独行動を咎めているのだと思い、反抗的な気分が込み上げる。あちらの冥闘士は俺が倒してやる――。その場を動かず冥闘士の方に向き直ろうとしたとき。何かが足をつかんだ。斬られて一旦倒れていた死体が、上半身だけで動いてツバキの足をとらえ、その動きを封じていた。しまった、すぐに場所を移していれば…!
「馬鹿め!」
冥闘士が叫び、動けないツバキに何本もの細槍のようなものを放った。閃光のように剣圧が走り、それらはすべて手前で叩き落とされた。エルシドはそのまま前に進み、一気に冥闘士を斬り捨てた。
「行くぞ」
ツバキの足を抑えていた死体の手を斬り捨て、エルシドが言った。
なぜ俺を叱責しない…? 勝手な単独行動をした上、すぐ命に従わなかったばかりに無様に足をとらえられた俺を助け…。
動かないツバキをエルシドがけげんそうに振り返った。そのとき、わずかな気配を感じた。まだ事切れていなかった先程の冥闘士が、自らの放った細槍の一本を握り、最後の足掻きでこちらに投げつけたのだ。
エルシドは舌打ちして冥闘士に止めを刺した。ツバキは自分に向かって来るその細槍をぼんやり見つめた。俺は無能、か? エルシドは、槍は当然ツバキが対処すると思っていたので対応が遅れた。ツバキが動かないため、エルシドはツバキの前に出た。腕と肩の聖衣の隙間に細槍が刺さる。吹き出た血の赤さにツバキは我に返る。
「…エルシド様…!」
エルシドは刺さった槍を手刀で短く切ったが抜かなかった。今無理に抜くと出血がひどくなると知っての処置だった。
「戦場で心を乱すな。死ぬぞ」
「俺の命など…」
「無駄な命なぞない。聖闘士の命ならなおさらだ」
「俺は聖闘士として失格です…!」
「そんなことはあるまい。お前は自分をよく知らないだけだ。聖闘士になれたのがその証だろう」
当たり前のことのようにこちらを肯定する。俺はここにいてもいいのか?
「行くぞ。俺と来い」
「エルシド! その怪我は…!」
「大事ない。冥闘士が残っていた。止めを刺すのを怠った俺の失態だ」
だがシジフォスはだまされなかった。厳しい声でエルシドに言った。
「こっちはいいからすぐに戻って治療をしろ。他には冥闘士はいなかったし、後は俺が片付ける」
「俺も…俺がお供していきます!」
ツバキが叫ぶように言うと、シジフォスは一瞬厳しい目でツバキを見たが、うなずいた。
聖域の施療所で槍を抜いたとき、エルシドは声一つ上げなかったが、かなりの重症だった。黄金聖闘士らしからぬ負傷に治療師たちは眉を寄せ、付き添ってきたツバキに胡散臭そうな目を向けたが、エルシドは何も言わなかった。
「エルシド様…申し訳ありません…俺のために」
「お前のせいではない。あのときも言ったが俺の失態だ」
「いいえ…!」
ツバキを見てエルシドは静かに言った。
「お前の小宇宙には危ういものがある。お前には信じるものがないのか」
「俺は…」
「だがお前の小宇宙には強いものを感じる。迷いを捨てろ。アテナ様の愛は希望だ。拠り所が欲しいのなら俺のところに来い」
ツバキは顔を上げた。「来い」と言ってもらえること。必要とされる喜び。ツバキはエルシドの前にひざまづいた。
「俺を…部下にしてください。貴方の一番槍として」
「認めよう」
エルシドがうなずいた。それは黄金の光の導きに似て。
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ツバキをうざいだけじゃなくて何とかしようとしてみた。設定暗いか?
ちょっと書こうと思っただけなのに、何だかラカーユ話より苦労した。ただの周辺人物なのに! 妙に大げさだよ。その割には出来がいまいち。
アニメだとエルシドは自分から部下採ったりしなさそうで、部下たちは押しかけっぽい感じだったけど。
さらに外伝だと、本編の5~7年前?と思しき頃にまだ候補生っぽい姿のツバキがエルシドを出迎えているような。候補生の頃からエルシドに心酔してた、とかいう設定を取り込もうとするとこの話は成り立たなくなるので、とりあえずそれはパスすることにさせてください。
↓蛇足解説と自分への突っ込み。
双子神はハーデス様を探しているんだよね? まだアローンが見つかる前。
エルシドも単独行動だったけど、「組になれ」は黄金さんには該当しないんだよね、きっと。
体で受けるより斬り捨てた方が簡単そうだし、エルシドならできると思うけど、そこはまあ話の都合上。
えーと、ツバキくん、「アテナ様の愛」を素通りしてない?
施療所ってきっとあるよね…また捏造設定。
「死体損壊」はその本人や家族には申し訳ないことかもしれないけど、敵の「道具」として操られているなら、エルシドはためらわず斬り捨てるような気がする。
ハーデス十二宮のOVAで、シュラはシャカの幻影の死体をすごーく嫌そうに斬り捨ててたよね。ああ、苦手なんだね、こういうの、て思ったですよ。
エルシドはシュラよりは顔に出さないと思うけど、やっぱり嫌いだと思う。ただ死体が気持ち悪いというんじゃなくて、冒涜しているような行為への嫌悪感として。
ツバキはどこの出身なんだろう…ヨーロッパ、それもエルシドの出身地スペインをイメージしていたんだけど、この名前は日本人なのか?(アニメ設定より) 杳馬さんのように日本から来た理由付けするのはもう置いておくとしても、でもこの名前は女性っぽい…。まあ「アフロディーテ」っていう男性がいる星矢界だから、それも置いておいていいことか。
18世紀中頃のヨーロッパはオーストリア継承戦争とかがあって、結構戦乱の時代だったと思うのですが。フランス革命のちょっと前。
しかしこの時代のギリシャはオスマン・トルコ領…独立するの19世紀になってからなんだよね。ま、聖域とその周辺は不思議空間なのであまり気にしない方向で。
高校時代の世界史年表とか出してきちゃいましたよ。18世紀のヨーロッパの生活習慣とか風俗とかもちゃんと調べるべきか。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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