主編「修行」の章の中あたり。「女神の戦士」と同じく、本来なら主編に入れるべきものかもしれませんが…。
うちのオリキャラヒロイン、ティソナの初任務話。ちょっと暗いです。流血注意。
文中の「変化」は「へんげ」とお読みください。
「聖域の平和な一日、あるいは闘技場の受難(4)」への拍手(×2)、ありがとうございました!
次回、しばしお待ちください。
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冥闘士が多数出たという知らせがもたらされた。討伐隊を率いることになった古参の白銀聖闘士は渡された名簿を眺めて、ちょっと眉を寄せた。そして、人数を多めに追加する。
「では出発するぞ。…ああ、この中には任務が初めての者が何人かいるな。一つだけ言っておく。冥衣を身に着けている者はすべて冥闘士、冥王の絶対的な部下だ。地上の平和を守るためには倒さねばならぬ敵だ。それを忘れるな」
初めての本格的な任務。ティソナは仮面の下でぐっと唇を噛み、我知らず拳を固く握りしめた。冥闘士に荒らされた土地を通る。六年前の光景が嫌でも脳裡に蘇る。冥界の「気」を受けた化け物に荒らされた故郷の村。倒れた人影。流れる血。
前方に禍々しい小宇宙を感じた。聖闘士たちはそのあたりをめがけて一斉に散った。
あのときと同じように化け物の姿が見えた。巨大な亀のようなはいつくばった姿。ティソナは腕を大きく振りかぶった。そいつがひょいとこちらを向いた。
「小娘、俺が斬れるのか?」
しゃべった…! これは冥界の「気」を受けて動物が変化した化け物じゃない。この者は冥闘士――人間だ。よく見ると甲羅のように見えたものは冥闘士の冥衣だった。それも画一的な冥界の雑兵、スケルトンのものではない。思わずためらったティソナの技は上滑りしてかろうじて相手にあたる。だがほとんどダメージにはならなかった。冥闘士はにやりと笑った。
「もう終わりか? ならばこちらから行かせてもらおう」
繰り出される技を飛び上がってよける。剥き出しの腕を衝撃がかすめる。皮膚の裂けた痛みが、吹き出す血が、ためらいを振り払う。あまり動きが俊敏ではないようだ。候補生時代の厳しい訓練を思い出す。このくらいなら…!
ティソナは相手の胸元に飛び込んで腕を振るった。小宇宙を込めた腕は刃となる。その刃が深々と肉をえぐった感触。目の前が赤く染まる。殺戮の色に。近くで動くものが見えた。無意識に体が反応して振り向き、冥界の「気」を受けた変化を認識し、ほとんど機械的に腕を振るう。ああなんて鮮やかな赤なのだろう。命の流れ出す色は。
我に返ると掃討は終わっていた。麻痺していた感覚が徐々に戻ってきた。周囲に倒れ伏す斬り裂かれた冥闘士や化け物の体。それも一体ではなく。腕と聖衣、そして仮面にかかった返り血。自分が命を奪った相手の血。まといつく血臭。
「あ……―――――」
言葉にならない悲鳴がもれた。体ががくがくと震えた。頭ではわかっていたつもりだった。聖闘士の任務とは「敵」の命を奪うことなのだと。わかっていたつもりだったのに。この臭いはきっとずっと消えない。どんなに洗っても、きっと。
リーダーの白銀聖闘士は状況を確認した。今回はあまり強い冥闘士はいなかったようだ。二三、星持ちの冥闘士がいたが、ほとんどがスケルトンや変化どもだったのが幸いした。多少怪我をした者もいるが、動けないほどの者はいない。ただ、呆けたようにすわりこんでいる者、悲鳴を上げている者、しゃがみこんで激しく嘔吐している者がいた。任務で初めて「敵」に遭遇した者には避けて通れない道だ。だがそれも生き残ってこその苦しみだ。聖闘士の務めの重さを感じての。
「よし、行くぞ。立ち上がれない者には手を貸してやれ。聖域へ戻る。アテナ様の元へな」
自失していた者たちが顔を上げる。選んだ道はきれいごとで片づけられることばかりではない。それでも、守りたいものがある。そのために、立ち上がる。この道を、前へ進むために。
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誰だよ、このリーダーの白銀(笑)。
まだエルシドの部下になる前。
多分この夜は眠れない。
クリスタルカットラスを会得する前なので、ティソナはほとんど手刀で直接相手を斬っている感じ。よく訳がわからん衝撃波的な技より、「斬り技」はリアルな感じがしますよね。
やっぱり「最初」はいつか書いておくべきかと。うまく書けているかは自信がないですが。
おかしいなー、今度はらぶらぶを書こうと思っていたのに。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
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