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Posted by MCBT - 2014.01.12,Sun
※当サイト初見の方はこちらをご覧ください※

星矢オンリーイベント「パラダイス銀河XV」(2013.5.26)において発行された、エルシド受アンソロジー「さすがは俺達のエルシドさん」(完売済)への参加作品その2です。

ハクレイさんがエルシドさんを拾ってきたという、手代木先生の設定メモにあったネタを使っています。
こっちも若エルシドさん。

捏造過去話「黒髪の少年」の直後の話になります。「黄金の光」あたりとも関連。

オリキャラは出ません。
 


拍手[1回]


---


 エルシドは無表情な少年だった。
 時折各地を巡り、独自に小宇宙に目覚めているような、聖闘士になれるような素質を持つ者を探すことも、教皇補佐である祭壇星座のハクレイの務めの一つだった。少年エルシドもまた、そうしてハクレイに見出されたのだった。
 ハクレイはエルシドを連れ、聖域に向けて出発した。手近なところにある修行地にすぐ連れて行くこともできたのだが―実際いずれはそこで修行させるつもりだったが―、ひとまず聖域に連れて行くことにしたのは、黄金聖闘士の候補生として教皇に会わせるためでもあったが、この少年についてもう少し知っておくべきだと思ったからだ。そのため、白銀聖闘士たる己の力を使えば聖域までそうかからずに行くこともできたが、あえて普通に徒歩で聖域に向かったのだった。
 黄金聖闘士候補―そう、この少年が独自に身につけていた小宇宙は、まだ荒削りで磨かれていないとはいえ、やがて黄金聖闘士になるであろうものとハクレイは見抜いていた。しかし同時に、出会ってからまだろくに話らしい話をしていないこの少年の心が、どのようなものであるか見極めかねてもいた。

 毎晩野宿するときに、ハクレイはエルシドに聖域のこと、聖闘士のこと、女神のことなどを話した。そして、小宇宙の燃やし方を教えた。少年は話は黙って聞いていた。その瞳は暗く、相変わらず何を考えているかは図りがたかった。だが小宇宙を燃やす修行になると顔つきが変わった。
「だいぶ制御できるようになったな」
 ハクレイは手を伸ばして少年の髪を撫ぜた。少年は少し驚いたように目を見開き、次いで下を向いた。
「ん、どうした?」
「…なんでも、ありません」
 少年は顔を伏せたまま言った。声が微かに震えていた。そうか、この少年は長いこと他人に庇護される立場にいなかったのだな。
「ふむ」
 ハクレイはより一層少年の髪をかき回した。
「なにしてるんですか」
 少年はやや抗議するようにハクレイを見上げた。
「なに、子どもは子どもらしくしておれ。できるときはな。よくやったと言っておるのだ」
 ハクレイはさらにその頭を撫ぜた。エルシドは、褒められて嬉しそうにすればいいのか、子ども扱いされて腹立たしそうにすればいいのかわからないような、両方がない交ぜになった表情を浮かべていた。その、初めて感情を表した様子に、ハクレイは楽しそうに目を細めた。

 そうして幾晩目だったか。その晩も小宇宙を燃やす修行をしていたとき。
 ふとハクレイは顔を上げ、表情を引き締めた。その様子にエルシドもはっとして背後を見た。焚き火の明かりの届くか届かないかのあたりに複数の人影が見える。纏っているのは黒く見える鎧と闇のごとき小宇宙。
「金目のものなどないぞ。まあそういうものを求めて来たわけではなさそうだがな」ハクレイはその者たちに向かって声をかけた。「物騒じゃな。こんなところを冥闘士どもがうろついているとは」
「お前ら、聖闘士か?」
 先頭の男が一歩進み出て濁った声で問う。
「さぁてな? 放っておくのが貴様らのためと思うがのう」
「じじィとガキか。なめやがって。かまわん、殺れ」
 男は後ろに続く者たちにあごをしゃくる。
「やれやれ、敬老の心も児童養護の精神もない奴らじゃ」
 ハクレイは大げさにため息をついてみせた。身構えたエルシドを制して立ち上がる。
「下がっておれ」
 最初に突っかけてきた鎧の男の顔面を素手の拳で捉えて殴り飛ばす。
「わしは警告したぞ? それでも来るというのだから、それなりの覚悟を持っておるのだな?」
 数人いた男たちはたちまちのうちにハクレイにのされて動かなくなった。
 背後でどさりと人の倒れる音がした。ハクレイが振り向くと、エルシドが右腕を構えて立っていた。
「貴方の後ろを狙っていました」
 手刀で直接薙いだのだろう、手先に血がついていた。倒れているのは大柄な男だった。纏っている冥衣の形状から、ただの雑兵であるスケルトンではないとわかる。
「前からの奴らを囮に使ったか。こすからい奴じゃのう」
 ハクレイは足先でその体をひっくり返した。二筋ほど斬った痕がある。
「魔星持ちの冥闘士相手は初めてか? 敵は正確に見極めてから動かねばな」
 エルシドは無言で唇を噛みしめた。
「だがよくやった。礼を言うぞ」
「気づいておられるとは思いましたが」
 エルシドはぼそりとつぶやいた。礼を言われたことに納得していないようだ。鋭い洞察力というべきか。
「ではお前の力量を見るためだったと言ったら怒るか?」
「いえ」
 固い表情のエルシドに、ハクレイはぽんと頭を叩いた。
「まあ、結果良ければすべて良しじゃ」
 ハクレイは豪快に笑った。
「それにしても近頃の冥闘士は質が落ちたのう。そろそろ冥王が復活するかという頃なのじゃが、こんなものか」
 エルシドは改めて見回して、ハクレイがわずかの間に倒した冥闘士の数に驚いた。たいして小宇宙を燃やしたようには見えなかったが、圧倒的な強さだった。
「…貴方が強過ぎるのでは?」
 少々あきれたようにエルシドは言った。
「なんの。聖戦になれば相手にはハーデス以外にも神々がおる。まだまだ、この程度ではな」
 エルシドは面を改めた。
「俺に、もっと小宇宙の使い方を教えてくれ。一撃で倒せるように」
 初めて、エルシドの方から希望を述べた。
 研ぎ終わる前の剣はまだ硬くて折れやすい。この少年が良い剣になるように導いてやらねば。

 エルシドは毎晩小宇宙の使い方を熱心に学ぶようになった。荒廃した村に行きあったのはそんな頃だった。続く戦乱で荒れ果てた村。昏い小宇宙の気配も感じられる。道の先から数人の人影が現れた。どこか虚ろで歪んだ顔。こちらの姿を認めるや、手にしている棒や鎌を振り上げて襲いかかってきた。
 ハクレイは後ろに下がっていた。エルシドは手刀を振るった。男たちが倒れ伏す。だが今回はその手に血はついていない。
「『峰打ち』か」
「この者たちは、この前の奴らとは別でしょう」
 一瞬で、もとはただの村人に過ぎないと見切ったか。冥闘士が戯れに撒いた昏い小宇宙の残滓がその心に影響を与え、精神が一時的に凶暴化している者に過ぎない、と。
「貴様ら、覚悟しな!」
 家の陰から、もう一人、男が出てきた。先程の者たちとは比べものにならないほど血に餓えたような目つき。流れの夜盗か傭兵崩れか、手入れの悪そうな大斧を振りかぶり、エルシドめがけて振り下ろす。
 エルシドは腕で受けたように見えた。実際には防具のない腕の直前に小宇宙で壁を作って止めている。
「小僧…!」
 男が再び斧を振りかぶったとき、エルシドは今度は一刀の下に斬り伏せた。鋭い一撃に迷いはなかった。人間らしくあるよりも、昏い小宇宙になじみ、自らそれに身を委ねることを好む者もいるのだ。素早く適確な状況判断。このわずかな間に、成長したものだ。
「よくやった」
 ハクレイは本心から言い、エルシドの頭に手を置いた。
「…やめてください」
 エルシドは照れくさそうに、その手をつかんで自分の頭からどけた。
「なんじゃ、子どもは素直に褒められておけと言ったではないか」
 ハクレイは破顔した。この少年は心配はないようだな。先行きが楽しみというものだ。
 夜が明けかけていた。エルシドは決意を込めた眼差しで真っ直ぐ日の出を見つめていた。曙光が映ったその目は、もはや暗くはなかった。

「おお、なかなか板についておるではないか」
 ハクレイは教皇による聖衣の授与を受け、山羊座の黄金聖衣を纏ったかつての少年を満足そうに見つめた。
「かたじけない」
 エルシドは恩人に向かって丁寧に礼をした。
「なんじゃ、相変わらず固いのう」
 ハクレイは手を伸ばして、以前よくやったようにエルシドの髪をわしゃわしゃと撫ぜた。
「すっかり背も高くなりおって。わしと同じくらいにはな」
 この年でもかなり長身のハクレイはにやりとしながら言った。エルシドは、その手を払いのけるような不躾な真似はしなかったが、少し迷惑そうに眉を寄せていた。それでも、微かに気恥ずかしそうな、誇らしい表情を浮かべているのが長年見てきたハクレイにはわかった。
(ふむ、簡単には折れぬ剣になったか)
 ハクレイはエルシドの頭をもうひと撫ぜし、満足そうにうなずいた。


---


ハクレイさんは「アスミタとエルシドも拾ってきた」というようなことが原画展で展示されていた手代木先生の設定資料メモに書いてありました。以前アニメのプレミアでもおっしゃられていたとか。
アスミタ外伝には、アスミタがチベットのハクレイのもとへ行ったと出ていましたが、エルシドについては今のところ出ていません。残念!

上記設定に加えて、アニメでは「エルシドであれば必ずやシジフォスの魂取り戻してくれましょう」「あの者でなければここまではできますまい」などと、ハクレイさんがすごくエルシドを買っている発言があって、よしいける!と思いました。
タイトルも「奴は折れぬ剣(つるぎ)です」というアニメでの発言から。「剣」は「けん」と読んでも「つるぎ」と読んでもどちらでも可です。

少年エルシドさんをひたすらハクレイさんに褒めてもらうことにしました。
ハクレイさんがエルシドの師匠なのか、ということは不明なのでそこはぼかしてみました。

エルシドは基本自分の技頼みだけど、腕を斬られたらその腕の聖衣の共鳴を利用したり、シジフォスの門が自分に開けないと思うとアテナ様に連絡して夢界への道を作ったり(アニメ版)、洞察力が鋭く、咄嗟の状況判断による行動が素早いですよね。「ただ貫け!!!」で脳筋っぽいけど、ただの脳筋じゃないよ!

「峰打ち」をちょっと調べていたら、時代劇でよく「安心しろ、峰打ちだ」などと言われるがそういう打撃は決して「安心」とは言えない、とありました。カタラニアでエルシドが大勢を薙ぎ払ったのもそんな感じ?(血も飛んでたような)
 

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MCBT
性別:
非公開
自己紹介:
8月20日獅子座生まれ。
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。

何かありましたら
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まで(★を@に)。
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