星矢オンリーイベント「パラダイス銀河XV」(2013.5.26)において発行された、エルシド受アンソロジー「さすがは俺達のエルシドさん」(完売済)への参加作品その1です。
峰さん側には「淡き想い」があったのでは?という前提で、峰→エルシド。
「散桜 ― noli me tangere ― 」、「見果てぬ夢」につながります。
オリキャラは出ません。
エルシドは無愛想な少年だった。
同じくらいの年ということで、初めから興味があった。だが、兄弟子だという年上のフェルサーは気さくに話しかけてくるのに、エルシドはそばを通っても、目もあわせずに通り過ぎるのが常だった。
「なんだ、あいつは」
嫌われるようなことをした覚えはない。無視されているようで、だんだんおもしろくない気持ちが募ってきた。
今日も朝の鍛錬を一通り終えてきたのだろう、汗をぬぐいながらエルシドが向こうから歩いてきた。相変わらず、こちらには目もくれない。
「おい!」
峰は、そのまま住んでいる小屋に入ろうとしたエルシドの腕をつかんだ。
「お前、どういうつもりだ」
エルシドはわずかに目を見開いて峰の顔を見た。
「何が」
その純粋に怪訝そうな表情に、峰は戸惑った。
「…挨拶の一つもしたらどうなんだ」
「あ、ああ」
エルシドは困ったように口ごもり、空をちらと見上げた。
「…おはよう」
「なんだ、それは」
「いや、まだ昼前だから」
峰は思わず吹き出した。確かに太陽はまだ中天に達していない。エルシドは律儀にそれを確かめたのだ。なんだかズレているその反応に、笑いがこみ上げてきてしまった。
「だからって他に言いようがあるだろう? 起きたばかりでもないのに今さら『おはよう』とか」
「他に何を言えばいいんだ」
あまり峰が笑うのでエルシドは少々むっとしたように言い返した。それがさらに笑いを誘った。こいつは何を言っていいかわからないので何も言わなかっただけだったのか。人付き合いに慣れていないだけで。わかると何だか妙におかしかった。峰は困惑した表情を浮かべるエルシドを小屋の壁に押し付けるような姿勢のまま、ひとしきり笑い続けた。
予定していたことが早めに終わった日、ふと気が向いてエルシドの修行を見に行ってみた。あれ以来、エルシドとは顔を合わせれば二言三言、言葉を交わすようにはなっていたが、ふだんどんな修行をしているのか、詳しく聞いたことはなかった。
初めて見たその『修行』は、思っていたよりずっとすさまじかった。小宇宙を込めて振るう手刀はまるで本物の刃のように、否、本物の刃より鋭いのではないかと思えるほどだった。はじめはただ息を呑んで見つめていた峰は、次第に研ぎ師としての目でその光景を追っていた。
「お前の手、どうなってるんだ」
休憩に入ったとき、峰は近寄っていって、ぐいとその手を取ってみた。エルシドは少し驚いたような顔はしたが、別に害意はないと思ったらしく、手を引っ込めはしなかった。
その手には、すでに微かな痕になっている古傷から最近の生傷まで、無数の傷がついていた。厳しい修行を物語る手は、鋼のように硬かった。硬いが、血の通った人間の手である証拠に温かかった。その温かみに、ふいに峰はエルシドの手を取っていることを意識した。そして、エルシドの手は、自分の手より一回り大きかった。
「お前の手は…大きいな」
峰は早口で言った。
「そうかな」
「ずるいぞ! 背は私の方が高いのに」
エルシドの頓着しない物言いに、峰はむきになって答えた。そして腕を引っ張って立たせると背中合わせになり、頭の上に手を当ててみた。
「お前たち、何をしているんだ?」
通りかかったフェルサーが面白そうに聞いてきた。
「あ、フェルサー見て! 私の方が高いでしょ?」
フェルサーはじっくり二人を見比べた。
「そうだな、少しだがな」
「ほら!」
峰は誇らしげに胸を張った。形は違えど、同じように『聖剣』を目指す者としてちょっとだけ優位に立ったような気がして、上から目線で峰はエルシドに笑いかけた。そうして、先程感じた胸の鼓動を自分にも紛らわしたのだった。少しばかり悔しそうな顔をしたエルシドに、フェルサーが慰めるように言っていた。
「まあそうがっかりするな。お前たちくらいの年頃は、男より女の方が成長が早いからな」
エルシドの拳が『聖剣』として完成されるにはまだ間がありそうだ。自分が先に『聖剣』にたどり着くことはできるだろうか。このやや浮世離れしていそうな少年を『守る』ことは。峰は自分の中に芽生え始めていたその淡き想いに、まだはっきりと気づいてはいなかった。
---
外伝の若エルシドさん、かわいかったです。あのへん、もっと見たかったなー。
過去回想ではエルシドさんが思いのほか「普通の少年」でちょっと意外でした。あのまま二人が成長していれば、自然に恋愛関係に発展しそうです(if「夢」話として「聖剣への夢」)。
「性別を越えた友情」でも良いですが。
恋愛未満。でも峰さんの方が押してる感じにして男前の「攻」っぽくすれば、アンソロの趣旨に合うかなと。
峰さんは多分日本生まれじゃないよね。日本生まれだとしても覚えていないくらいでは。お母さんは日本人? ヨーロッパ人? そもそもお父さんは鎖国の「太平の世」の日本から、どうして、どうやってはるばるやってきたのか。桜の苗を携えて? 刀研ぎはお父さんから継いだものなんだよね、きっと?
2008年頃に、ひょんなことで車田正美の漫画『聖闘士星矢』にはまる。漫画を読了後、アニメもOVA・TV版・映画版と観て、ギガントマキア・ロストキャンバス・エピソードGなどのスピンオフ作品にまで手を伸ばす。
トータルでの最愛キャラは車田星矢の黄金聖闘士、双子座のサガ(ハーデス編ほぼ限定)なのだが、このところ何故かロストキャンバスの山羊座の黄金聖闘士エルシドにはまっている。全然タイプは違うのだが、格好良さに惚れた。
二次創作は読むことはあっても書くことはないと思っていたのだが(いやかつては読むこともしなかったのだが)、とうとう禁?を破ってこんなことに。
このサイトは二次創作に特化させた「エルシド別館」なので、ロストキャンバスの新刊の感想等はこちらの「本館」のブログのカテゴリー「聖闘士星矢」を参照されたい。
何かありましたら
mcbt★br4.fiberbit.net
まで(★を@に)。
Powered by "Samurai Factory"